『刑事フォイル 差別の構図』感想
まずはひさしぶりにフォイルの感想が書けて嬉しい(4/7放送分は、残念ながら見逃してしまいましたが)。
最初のシリーズの頃と比べたら、みんな少しずつ年を取っています。でもフォイルの明晰な推理は変わりません。
あらすじ&感想
このドラマでは差別について何度か描かれてきました。『ドイツ人の女』や『疑惑の地図』などのドイツ人に対する憎悪。そして、『臆病者』などでドイツ人が迫害していたユダヤ人に対する差別。今回は、黒人に対する差別が描かれています。
サムのいるゲストハウスで生活する人々。
ゲストハウスの経営者、アダム・ウェインライト。なんというか、少し押しの弱い青年です。
黒人のアメリカ兵ゲイブとの間に女の子を生んだマンディ。赤ちゃんのミルク代さえもないと自分の母親に泣きつきますが、冷たくあしらわれてしまいます。黒人とつきあうことは、白人社会からも黒人社会からも排除されることを意味します。とはいえ、実の娘にそこまでの仕打ちをするとは、と思ってしまうのですが、マンディの行為は当時、それほど度を越した行動とされていたのだろうと思います。
戦争で腕を失くしたヘインズ。実は、彼はある犯罪に手を染めているのですが、腕がないことで疑いが自分に向かないようにしていました。
ヘインズに冷たくあたる女性、ルーシー。赤ちゃんのことでマンディに文句を言うヘインズから、マンディをかばってくれます。
フォイルが警視正として参加する会議では、 衝突が続く白人兵と黒人兵に対する対策として、アメリカ軍は一時的に人種を分ける提案をしますが、
「だからこそ我々が何を目指して戦ったかを思い出さなければ。弾圧からの解放、そうでしょう?」
とフォイルは反対します。
そんなとき、マンディの元恋人でボクサーのトミー・ダガンがヘイスティングズに戻ってきます。
トミーは兵役を拒否したことで、街の人たちによく思われていません。フォイルのいるパブに偶然入ってきたトミーに、パブの主人はトミーに売るビールはないと言います。
「ナチスを止めなければならないと思わなかったのか?」
と問うフォイルに、トミーは、先の大戦で戦った父は大戦後に自殺、そのあと母も自殺したことを話し、
「何も変わってない。同じ苦しみがまた今回も繰り返される。もし誰もが自分は戦わないって言えば、ヒトラーだって軍隊を持てず人殺しも起きない。」
と答えます。
会議では、白人兵と黒人兵を分ける措置について、決が採られます。流れがどちらに向かっているのかが明白に見えるとき、その反対の意見を言うのは難しいですが、フォイルだけが反対に手を挙げます。
ピーターはマンディのことが忘れられず、娘を養子に出して自分と結婚しようとマンディに伝えますが、マンディは取り合いません。
ゲイブと結婚したら、ゲイブと娘が無事ではすまない、娘を養子に出してピーターと結婚した方がいいのかもいれないと泣くマンディを元気づけようと、サムはマンディをダンスパーティーに誘います。パーティーに来合わせたゲイブはマンディを見つけ、一緒に踊ろうと声をかけます。2人はダンスを始めますが、白人兵たちが2人を取りかこみ、不穏な雰囲気となります。このあとの2人の行く先を暗示しているようです。
ゲイブはマンディに、結婚してアメリカで新しい生活を始めようと言います。不安はありますが、マンディはゲイブについていくと伝えます。
ゲイブとマンディは、結婚とアメリカ行きの許可を得るため、ウェスカー少佐に会いに行きます。ウェスカー少佐はマンディに
「アメリカの白人社会から排除されることになっても?同様に黒人社会からも?」
と問います。ゲイブと娘以外のすべてを捨てる覚悟でなければ、アメリカへ行くことはできないのです。
釣りへ行こうと車で森を通ったフォイルは、ダンスパーティーでマンディと踊ったことが原因で白人兵に襲われて倒れていたゲイブを見つけ、基地へ送り届けます。釣りの帰り、魚をサムへおすそわけしたフォイルは、サムから夕食に招かれます。
ゲストハウスでマンディ、ゲイブと2人の赤ちゃんが一緒にいるのを見たフォイルは目を細めます。こういう幸せな光景のための戦争だったのだと思ったのかもしれません。
街でマンディを見かけたアメリカ軍のカルフーン軍曹は、アメリカで起きた黒人へのリンチがどんなにひどかったかをマンデイに話します。
その夜、カルフーン軍曹が仕切っている賭けボクシングが行われていました。ピーターはその試合に出ていました。そこへ入ってきたゲイブたち黒人兵と白人兵の間にいざこざが起きて殴り合いとなり、ゲイブたちは逃げ出しました。
その頃ちょうど、アメリカ兵たちの給料が配達されていました。配達したアメリカ兵は背後から誰かに銃を押しつけられて脅され、給料を強奪されました。
逃げ出したゲイブを白人兵たちが追いますが、ゲイブは見つかりません。ゲイブの代わりに彼らが森で見つけたのは、マンディの死体でした。
フォイルは捜査を始めます。
ウェスカー少佐に話を聞くフォイル。
「戦争は楽しかったし終わってほしくなかった。」
と言うウェスカー少佐と彼を見るフォイルの目は、イギリスとアメリカの立場の違いを感じさせます。
ゲイブは、カルフーン軍曹に娘のことで脅迫され、給料強奪とマンディ殺害について嘘の自白をします。
フォイルはヘインズが本名を偽り、戦争成金を罰するために強盗していたことを突き止めます。同じゲストハウスのルーシーが実はヘインズの妻で共犯者でした。
アメリカ軍の給料強奪は、強盗していることをカルフーン軍曹に知られた2人が、強盗をばらすと脅されてやったことでした。しかしマンディ殺害は2人の犯行ではありません。
フォイルはカルフーン軍曹と会い、給料を強奪し、マンディにゲイブとの結婚のことで力を貸すと言って性的な行為を要求した上に殺害し、ゲイブには娘に危害を加えると言って脅して自白させたのではないかと迫ります。カルフーン軍曹は否定します。
フォイルはウェスカー少佐に会いに行きます。マンデイの殺害はウェスカー少佐の犯行でした。
ウェスカー少佐とカルフーン軍曹は、ボクシングの試合中に白人兵と黒人兵との間に騒ぎを起こさせ、ヘインズたちを使って給料を強奪し、それをゲイブの犯行だとすることを計画していたのです。ゲイブとの結婚を認めてもらおうとウェスカー少佐の部屋を訪ねたマンディはそのことを知ってしまい、彼に殺害されてしまいました。
皆が幸せになるためにしてきた戦争は、本当に皆が望んでいたものをもたらしたのでしょうか。
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