『思い出の靴を捨てる』(ドラマ『捨ててよ、安達さん。』第8回感想)
いつのまにか、このドラマが最初に放送されてから1年経っていたんですね。
去年巣ごもり生活が始まってからなんだか季節感がなくて、着る洋服が厚くなったりうすくなったりするだけで、大好きだったヒールを履くエネルギーもなくペタンコ靴を履くことが多い最近。
高いヒールを履こうと思う日は、いつもと違うエネルギーが要る。というより、靴からエネルギーをもらうという方が近いかも。服もそういう性質があるんだけれど、私にとっては靴の方がエネルギーをくれる気がする。ヒールの高さによって、その日見える景色が変わるからかもしれない。
安達さんがかつて交際していた男性とつきあっていたときに無理して買った価格もヒールも高めの靴が、捨ててほしいと頼みに来た。
過去に大好きな人とつきあっていたときに買った特別な靴。今は靴箱の中に入れたまま、履くことはない。
安達さんはその靴を履いていたころの自分を思い出す。
『たぶん彼のことが本当に、ものすごい好きすぎて、どんだけ背伸びしても不安で。でもあるときね、彼と並んで歩いてる姿がどっかのショーウインドーかなんかに映って。それで、びっくりしちゃって。もう・・・私の頑張ってますみたいな感じがすごすぎて。笑えてきちゃって。そしたらもう・・・。自分の無力さに打ちのめされちゃって。みすぼらしくて足痛くて苦しくて。足よりもっと、胸が苦しくて。』
背が低いことや子供っぽく見えることをコンプレックスに感じていた安達さん。彼とつりあう自分になりたくて、デートのときはそのヒールも価格も高めな靴を履いていた。
ふいに現れショーウィンドウの中の自分を見て、靴に自分のコンプレックスを確認させられたのかもしれない。その自分の姿に打ちのめされた安達さんは、それきりその男性とお別れしてしまった。
うめることができないとわかっているのに、コンプレックスのない自分を追い求めしまう。それを手に入れても幸せになれるとは限らない。
靴を履いていた自分を『全然似合ってなかったけどね』と言う安達さんに、『そんなことないよ。とっても似合ってた』と言う靴。
コンプレックスはうめられなかったけれど、叫びたいほど幸せだった。幸せな時間を安達さんが思い出すとともに、靴はかつての輝きを取り戻していく。
モノは、持ち主の気持ちを映すものなのだな。
そして、モノを手放しても、思い出は消えない。