『カルテット』STORY8-最終回
第6回、7回の感想をイギリスに向かう機内と着いてからのホテルで書いたのだけど、帰国してから忙しさにかまけて、その後更新しないまま最終回を迎えてしまった。
真紀さんの過去を知ってみると、これまでの回での真紀さんのセリフも違う意味をもって聞こえてくる。
第8回、真紀さんと別府くんがお客としてノクターンを訪れたときのセリフ。
「1人1人、ちょうどいい場所ってあるんだと思います。」
という別府くんのセリフに対し、
「ちょうどいい・・・」
と何かを考えながら言う真紀さん、とか。過去の秘密を抱えた真紀さんには、三流以下のカルテットでも、過ぎた場所に思えたんだろう。
第9回で、家森さんが別府くんに、
「2種類いるんだよね。人生やり直すスイッチがあったら、押す人間と押さない人間。僕はもう押しません。」
押さない理由は
「みんなと出会ったから。」
家森さんには、多分そこが「ちょうどいい場所」だと思ったからなんだろう。
ドラマの最終章に入り、真紀さんがある女性から戸籍を買っていたことがわかる。真紀さんの本当の名前は山本彰子(あきこ)。
真紀さんの母親(母親を演じられていたのは坂本美雨さんでしたねー)は、自転車にはねられて亡くなっていた。12歳の少年が、弟の生まれる病院に自転車で向かう途中に起こした事故だった。少年の家族は事故が元で離散した。山本彰子の義理の父親は、12年間事故の賠償金を請求していた。
山本彰子が早乙女真紀の戸籍を買って失踪した後、賠償金の請求は止まり、義理の父親は心不全で亡くなった。義理の父親は山本彰子に殺されたのではと警察は疑う。
山本彰子は、義理の父親の賠償金請求を止めようとして戸籍を買って別人になったのか、父親を殺して失踪するために戸籍を買ったのか。グレーだ。
執行猶予がついて釈放された真紀さんは、カルテットに戻らない。犯罪者として週刊誌に載った自分の演奏は色眼鏡で見られ、全部灰色になってしまうから。
週刊誌に載った真紀さんの写真から場所を割り出し、3人は真紀さんを演奏でおびき出す。公園での4人の再会のシーン、よかった。
真紀さんが軽井沢に戻ると、3人の生活は、自分が一緒に暮らしていた頃とは変わっていると気づく。家森さんは元ノクターン、現のくた庵で仕事をしているし、すずめちゃんは資格を取るために勉強しているし、みんなを養っていた別府くんは仕事をやめて無職。3人が変わったことは真紀さんのせいじゃないと、家森さんが言う。
「1年前にもこんなふうにして話してたじゃないですか。好きなことを趣味にするのか、夢にするのか。趣味にできたら幸せだけど、夢にしたら泥沼で、ちょうど今そのときが来たんだと思います。夢が終わるタイミング。音楽を趣味にするタイミングが向こうから来たんです。」
好きなことを仕事にするか、趣味にするかの選択に迷う時期はある。能力の限界という現実の壁に突きあたったとき。それでも続けていくことに意味はあるのか。
「教えてください。価値はあると思いますか。意味はあると思いますか。将来はあると思いますか。なぜ続けるんですか。なぜやめないんですか。なぜ?教えてください。お願いします。」
ドラマは視聴者にも問いかける。
プロを目指さなくてもいい、趣味として続けていければいいという3人の思いを聞いた真紀さんは、軽井沢の大きなホールで満員のコンサートを開こうと言う。
あのときを思い出した。第5回、愛死天ROOの仕事で、演奏せずに弾いてるフリをすればいいと言われて帰ろうとした3人に、
「やりましょう」
「カルテットドーナツホールとしての夢を見せつけてやりましょう」
と言ったときの真紀さん。この人のこういうときの切り替え方はすごい。あのときの真紀さんよりパワーアップしていて、自分の欠点とも言える過去の出来事を利用して人を集めるという。もう、楽しんだ者勝ちなんだなあ、人生は。
4人は、一流でも二流でも三流でも、志のある三流でもないところで、カルテットドーナツホールを続けていく。傍から見て、それがいいのかはわからないけれど、4人にとってはそれでいいんだろうな。他人のしていることが意味があるのかないのかを考えることが、そう意味のあることとは思わない。
もともと欠点で結びついていた4人。ドーナツの穴は欠点で、穴のない揚げパンが完璧かというとそうではなくて。いいか悪いかでもなく、白か黒かでもなく、主題歌『大人の掟』で歌われているように
「自由を手にした僕らはグレー」
白も黒も飲み込んで前に進んでいければいい。
なんか、『無罪モラトリアム』という言葉が浮かんだ。何度聞いたかわからない、椎名林檎さんのアルバムタイトルなんだけど、この4人のような状況を言うんじゃないだろうか、とふと思った。
「人生、ちょろかったー」
って私も言ってみたい。
しかし人生って長いのよね、思ったより。なんて、有朱のことになんだかんだと言及してしまうのは、私多分有朱のこと、嫌いじゃない。
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