糸をほぐす

頭の中のからまった糸をほぐすように、文章を書いています。

『SHERLOCK』シャーロックとアイリーンの関係を読む

 ドラマ『SHERLOCK』についてはもう多くの方が書かれているので、今さら私が書くこともないかとは思っていたのだけれど、NHKBSプレミアムでの再放送を見ていて、以前に見たのとはちょっと印象が変わったので、やはり書き残しておこうかなと思う。

もともと子どもの頃にドイルの原作を夢中で読んでいた。このドラマを見てから原作を読み直してもいて、原作と比較しながら見てしまう。

 

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アイリーン・アドラーという女性は、原作ファンにとってはもちろん特別な存在で、『SHERLOCK』ではどんなふうに描かれるのだろうと思っていた。

原作『ボヘミアの醜聞』では美貌と知性を持ったオペラ歌手だった。ドラマではS1E1『ベルグレービアの醜聞』で登場するが、SM女王になっていたのは意外だった。

このエピソードでシャーロックとアイリーンの関係はいろいろな解釈ができると思うけれど、私なりの解釈を書いてみます。2人の関係を読み解くには、シャーロックの2つのコンプレックス、兄マイクロフトに対してのものと、童貞であるということがキーだと思う。そしてエピソードの結末をどう解釈するかは、彼のコンプレックスを利用するようアイリーンに伝えたのはモリアーティだということを考えに入れなければいけないと思う。

 

アイリーンとシャーロックの最初の出会い。

原作ではホームズは牧師のふりをしてアイリーンの家にあがりこむ。アイリーンはこのとき、牧師がホームズが変装している姿とは気づかない。けれど彼女はあとからそれに気づき、男装してベーカー街を訪れホームズに声をかける。ホームズはそれがアイリーンの変装とは気づかない。

ドラマでは、アイリーンに会いに行く前に服をとっかえひっかえして何を着ようかと悩むシャーロック。シャーロックを迎えるアイリーンも同じく。まるでデート前のカップルだ。シャーロックがアイリーンの家に入ると、アイリーンは余裕で、何も身につけない姿でシャーロックの前に現れる。それはシャーロックの度肝を抜いて優位に立とうという作戦でもあるけれど、アイリーンにはそれ以上に確かめたいことがあった。それはシャーロックが女に興味があるのかどうかということ。

ここで、終盤のアイリーン、シャーロック、マイクロフト3人のシーンで、アイリーンが言ったことを思い出す。モリアーティはホームズ兄弟への接し方をアイリーンに教え、シャーロックをvirgin(童貞)と呼んでいたと。それを聞いたアイリーンは、女に免疫のないシャーロックが自分を女として意識すれば、シャーロックをうまく操れると考えた。けれどシャーロックが女に興味がなければその作戦は通用しない。だからシャーロックを試した。何も着けずにシャーロックの前に現れ、自分を見てシャーロックが金庫のパスコードを解けたら(パスコードはアイリーンのスリーサイズ)、シャーロックは女に興味があると推測できる。シャーロックはパスワードを解く。それを見てアイリーンがうっすらとほほ笑んだのは、彼が女に興味があるとわかり、自分が立てた計画どおりに進められると思ったからだろう。これ以降アイリーンは、どうしたら女に対する興味を自分に向けさせその気持ちを利用できるかを考えて、シャーロックに接していたと思われる。

 

シャーロックは金庫からアイリーンの携帯を奪ったが、アイリーンはシャーロックに薬を打って意識を奪い、携帯を取り戻す。このとき、アイリーンは携帯に何かを打ち込んでいるけれど、ここで携帯のパスコードをあのコードに変えたのではないかと思う。

 

シャーロックが薬の作用で意識を失い、その間に彼のコートとともに彼の携帯も持ち去ったアイリーンは、その夜シャーロックにコートと携帯を返しに来た。携帯の着信音はアイリーンによって変えられ、アイリーンのメールが届いたときには彼女の甘い声が聞こえるように設定されている。

携帯の着信音なんて気に入らなければすぐに変えることができるのに、シャーロックはそれを変えない。彼の態度を見ていると、むしろその声を聞くのが嬉しくさえあるようだ。すっかりアイリーンの術中にはまっている。シャーロックはメールが届くたびにアイリーンの甘い声を聞き、その姿を思い出す。1日に何度も。それは恋に似た感情を産んでいく。うぶで孤独な坊やは女王様に太刀打ちする術を知らない。

 

国家機密レベルの秘密を知るアイリーンは、常に命を狙われる危険にある。アイリーンは追っ手を欺くために自分の死を偽装する。アイリーンが死んだと思い、シャーロックは失恋したように食事もせず、しゃべらず、バイオリンで悲しい曲を弾いている。

  

 再びシャーロックの前に現れたアイリーンにそそのかされ、シャーロックはある暗号を解く。アイリーンは暗号の意味をモリアーティに伝える。モリアーティは暗号を解いたことをマイクロフトに伝え、マイクロフトは時間をかけて進めていた国家レベルの作戦が決行できなくなったことを知る。

アイリーンはこの暗号を解かせるためにシャーロックに近づき、シャーロックを利用するようアイリーンに持ちかけたのはモリアーティだった。

マイクロフトはシャーロックを呼び出し、シャーロックが暗号を解いたことで大きな作戦が無駄になったことを伝える。それはシャーロックが好きな女にかっこいいところを見せたいと思ってやったことであり、恋する男の子が教科書どおりに行動した結果なのだと。自分はアイリーンにただ利用されていたのだと悟るシャーロック。そこへ現れたアイリーンは

「Mr.Holmes.」

と声をかけるが、声をかけた相手はシャーロックではなくマイクロフト。誰かがホームズ、と呼ぶとき、呼ばれるのは自分ではなく兄のことなのだ。アイリーンはマイクロフトに、自分の持っている情報を買い取り、自分を保護してほしいと要求する。好きな女に利用され、しかも彼女が頼ったのは自分の兄だとは。シャーロックのプライドはずたずたになっただろう。

 アイリーンは持っている国家機密情報と交換に、大金と自身の保護をマイクロフトに確約させる。

ここまではおそらくモリアーティが描いたシナリオだった。

 

アイリーンが、モリアーティに助言をもらったと言うのを聞き、シャーロックの顔つきが変わる。モリアーティが関わっているなら、彼の目線で一連の出来事を組み立て直さなければならない。モリアーティに負けることはシャーロックのプライドが許さない。

モリアーティにとってはアイリーンもゲームの駒のひとつでしかない。ホームズ兄弟を出し抜いて大金をせしめようが、うまくいかずに命を落とそうがどちらでもいい。それがモリアーティの用意したシナリオの結末だ。シャーロックはそのどちらでもない結末にシナリオを書きかえる必要があると思った。そうでなければモリアーティとのゲームに負けることになる。

恋に流されていたシャーロックがここからモリアーティとの対決に頭を切り替えたとして、その解釈でシャーロックとアイリーンのセリフを追っていくのだけれど、やはりどう読むのかは難しい。

 

シャーロックはモリアーティのシナリオを破るひとつの可能性に賭けた。それはアイリーンのパスコード。けれど彼は自分の恋を捨てられなかった。

シャーロックは、前夜アイリーンの手を取ったとき実は彼女の脈を測っていて、そのときアイリーンの脈は恋の作用で早くなっていたと言った。けれどシャーロックが言ったことは事実だったのか。私は、アイリーンの脈の早さはいつもと変わらず、脈が早かったのはシャーロックの方だったのではないかと思う。シャーロックは自分とアイリーンの気持ちの温度差に初めて気づいたのではないか。

それなのにアイリーンの脈のことで嘘をついたのは、それがシャーロックの願望だったからなのか、アイリーンに何かのメッセージを送っていたのか。その両方ではないかと思う。

シャーロックはアイリーンの携帯にパスコードを入力していく。それは、これであってほしいとシャーロックが願うパスコードだ。もしパスコードが自分の思ったものだったなら、シャーロックは、アイリーンが自分に対してしたことを許して、自分の命を賭けてもアイリーンを救おうと思っていた。けれど全く違うパスコードなら、完全な失恋をし、この世からアイリーンを失う。だから、ひとつひとつゆっくりと入力していく。愛は危険な代物だというセリフは、アイリーンにではなく自分に言ったのではないだろうか。

アイリーンはそれに気づき、シャーロックを止めようとする。

「I'm just plaing the game.」

ゲームをしているだけなのだから、シャーロックが命を賭ける必要はない。

I know.」 

わかってると言うシャーロック。いつの間にこんな大人の会話ができるようになったんだシャーロック。

2人が小声でこの言葉を言うのは、マイクロフトに聞かれないようにするためだ。 2人が新しいゲームを始めたことを他人に知られてはいけないから。

シャーロックはパスコードを解く。それは、シャーロックが求めていたものだった。

 「I am  SHERLOCKED.」

このパスコードは、アイリーンからシャーロックへのメッセージであり、モリアーティのシナリオでは用意されていないものだった。シャーロックはモリアーティのシナリオを破る賭けに勝ったのだ。

これでモリアーティのシナリオからシャーロックのシナリオへと書きかわった。マイクロフトの前で、シャーロックとアイリーンは、新しいシナリオで自分に与えられた役割を演じる。表面上は、モリアーティのシナリオが壊れていないように見せなければ、アイリーン救出はモリアーティに邪魔される可能性があり、そのためにはマイクロフトもジョンも欺かなければならない。

 そして、カラチで窮地に陥ったアイリーンをシャーロックが救う。

 そのあとアイリーンは彼女の1ばん得意な分野でシャーロックにたっぷりお礼をしたのだろう。シャーロックは2つのコンプレックスのうち、1つは手放せたのではないかな。

 シャーロックにとってアイリーンは初めての女性になり、アイリーンにとってシャーロックは命の恩人として記憶に残り続ける。

そういう結末だったのではないかと思う。

 

アイリーンのパスコードについて追記。

おそらくアイリーンは、シャーロックがパスコードを解くことも見越していたのではないか。とすれば、それはシャーロックに対するメッセージだったと考えられる。アイリーンは女のカンのようなもので、最後の最後に頼れるのはマイクロフトではなくシャーロックだと感じていたのだろう。シャーロックはマイクロフトにはないものを持っている、だからコンプレックスではなく、自分は自分なのだと自信を持ってほしいというメッセージをパスコードに託した。それはきっと母性のようなものだったのではないかな。

アイリーンは、もっと早い段階でシャーロックがパスコードに気づくと想定していたのかも。でも恋に流されるシャーロックは気づかなかった。もしもっと早く気づいていたら、その時点でモリアーティのシナリオから抜け出し、アイリーンの描いたシナリオに移行していたのかもしれない。

けれどゲームが終わるぎりぎりのところで、シャーロックはやっと気づいた。アイリーンのシナリオからしたらそれは遅すぎたのだけれど、シャーロックは恋する男を貫きたかったのだと思う。

 

 

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