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糸をほぐす

頭の中のからまった糸をほぐすように、文章を書いています。

『刑事フォイル 壊れた心』

ドラマ

『刑事フォイル 壊れた心』の感想を書いています。第5シリーズ第2話(NHK BSプレミアムでは2月19日、2月26日放送分)です。

 

 あらすじ

<前編>

1944年10月。イギリス軍はある貴族の館を接収し、精神を病んだ兵士の診療所にしていた。そこで働くユダヤ人の医師ノバクは、フォイルの友人でありチェス仲間だ。ある日、その診療所で別の医師が殺される。一方、ドイツで捕虜となっていた男性が復員。5年ぶりに戻った我が家で見たのは、自分の妻子がドイツ人の捕虜と楽しそうに過ごしている姿だった。

<後編>

収容所を脱走したドイツ人捕虜が死体で発見される。フォイルは、前日に彼と激しく口論したフレッドと、同じころに姿を消していた家出少年に疑いの目を向ける。一方、自殺を図ったが一命を取り留めた医師のノバクは、自分が同僚の医師を殺したと主張するが、フォイルは疑問を抱く。そして捜査を進める中、被害者の書斎である物を見つける。

NHK海外ドラマHP 『刑事フォイル』これまでのあらすじ より

 

感想

これまでの話を通しても印象的な回でした。中心になるのは医師ノバクがユダヤ人であるために起きてしまった悲劇、そこに戦地から戻っても元の生活に戻れないピーターとフレッド、2人のそれぞれの家族が絡んできます。

 

戦争も終わりに近づき、ヘイスティングズ署の雰囲気も少し明るくなってきているようです。ブルックはサッカーの試合の賭けに参加しようとフォイルたちに声をかけます。

一方で、戦争が落とした影はいまだ濃いままです。戦地から戻っても元の生活に戻れない人たちも多く、戦地でつらい体験をしたために精神を病み診療所で生活するピーターや、ドイツの捕虜となっていたフレッドもその1人です。

フォイルの友人でありチェスの師匠でもあるノバクは、ある日カフェでチェスをしながら、フォイルに自分の過去を話します。

「私の妻は音楽家だ。ピアニストでね。ショパンは、妻を思い出すから聴けなくなった。娘が一人。マリアンカだ。あと数日で14歳になる。自宅はポーランドのルブリンにあった。1939年の9月にヒトラーポーランドに侵攻した時、私はパリに出張していてね。戻れなかった。私を運がいいと思うかね。41年6月、家族は強制的にユダヤ人隔離居住区に移された。1年半後にマイダネクという強制収容所へ送られたらしい。あとはわからない。わかる日は来ないだろう。」

フォイルはこう返します。

「常に希望はあります。」

フォイルのこの言葉がドラマの最後までつながっていきます。

2人のこの会話の後、ノバクは同じ診療所の医師ワースの論文が載った精神科学の会報を見て激昂し、「あいつ、殺してやる!」と言い、カフェを出ていきます。 

 

 診療所で医師のワースが殺されるという事件が起きます。

フォイルは捜査のために診療所を訪れ、ノバクにも話を聞きます。ノバクがカフェで「殺してやる」と言ったすぐ後にワースが殺され、ノバクにも疑いがかかります。ノバクはフォイルに、話をするのは仕事があるので少し待ってほしいと言い、フォイルがノバクの部屋を出ている間に、ノバクはマイダネクの惨状を伝えるニュースをラジオで聞いてしまいます。マイダネクはノバクの家族が収容されている場所であり、彼は自分の家族は全員死んでしまったと思います。

ピーターは閉鎖病棟のある病院に転院します。ノバクは、ピーターがワース殺害の犯人だと思い、ピーターを守るために転院させたのです。マイダネクのニュースでショックを受けたノバクは、蒼白な顔で自転車で自宅へ向かいました。何かが引っ掛かったフォイルたちはノバクの自宅へ向かいます。

ノバクは、ショパンの曲を聴きながら、お風呂で手首を切っていました。とても悲しいシーンです。ゆっくりと死に近づいていくノバク、ノバクの家から漏れ聴こえるショパンで何かあったと推測し家に踏み込んだフォイルたち、血で赤く染まったバスタブに浸かったノバクをミルナーが助けるシーンでもショパンの美しいピアノが流れていて、悲惨なシーンを際立たせています。

ノバクは一命を取り留めます。なぜ自殺しようとしたのかと問うフォイルに、救急車に運び込まれながら、ノバクはワースが言っていたと口走ります。 このセリフの「ワース」は診療所の医師ワースのことかと思われましたが、実はBBCの特派員ワースのことだと後にフォイルの捜査でわかります。

ノバクは、ピーターを殺したのは自分だと言いますが、フォイルはそれが真実だとは思えません。

 

フレッドは戦地から妻ローズと息子ダニエルの元に帰ってきましたが、ドイツ人の捕虜でローズの農場の仕事を手伝うヨハンが、ローズやダニエルと親しくしているのを見て怒りを抑えられません。ドイツの捕虜となり苦しい思いをしている間、自分の妻や息子と仲良くしていたのが自分を苦しめていたドイツの人間だとしたら、それも仕方ないかもしれません。

ヨハンをよく思わないフレッドに気を遣い、ローズはヨハンを別の農場へ派遣することを決意します。別れのハグをしている2人を見てしまい、フレッドはヨハンに殴り掛かります。戦地で足を痛めたフレッドは、ヨハンに歯が立ちません。フレッドはヨハンに「戻ってきたら殺す」と捨てゼリフを吐きます。

 

体調が回復し、湖で釣りをしていたノバクは、家出している少年トミーと偶然出会います。家出した理由を問われたトミーは、その理由を答えます。トミーは電報を配達する仕事をしていましたが、夫が戦争で死んだという電報を女性に渡したとき、その女性が帰れと叫びながらトミーを叩いたことにショックを受けていました。

ノバクはトミーに言います。

「その人は悲しみのあまり、我を忘れたんだ。愛する人を失って。君がそこにいたからたたいただけで、今ならきっと君を抱きしめて謝ると思う。君のせいなんかじゃない。」

トミーをたたいた女性の立場に、後に自分が立つことになろうとは、ノバクはこのとき思っていなかったでしょう。 

 

第2の殺人が起きます。被害者は捕虜収容所から脱出したヨハン。ヨハンをよく思っていないフレッドか、爆撃で母を殺されてドイツ人を憎んでいる家出少年トミーが犯人かと思われました。

ヨハン殺害の犯人を探す中、ワース殺害は診療所所長のキャンベルが犯人だとわかります。キャンベルは、診療所の患者ピーターの妻で、自分の秘書をしているジョイとの関係をワースに知られ、ゆすられていたのでした。

 

第2の殺人のヨハン殺害の場面は、偶然、トミーが目撃していました。フォイルも自身の捜査から、犯人を突き止めていました。

フォイルはいつものカフェでノバクと会います。

フォイルは、ノバクが自殺しようとしたのは、ワース殺害の犯人とノバクが思っていたピーターをかばうためではなかったと指摘します。ノバクが自殺未遂で救急車に乗せられたときに口走った「ワース」とはBBCの特派員アレグサンダー・ワースであり、ノバクが自殺しようとした直前のラジオで、マイダネクで「想像もできない殺りく」が行われたとレポートしていました。

「想像もできない殺りく」という言葉に対し、ノバクは

「いや実際に誰かが想像し実行に移した。」

と言います。「想像もできない殺りく」を想像できるという人間の想像力の恐ろしさ。

ノバクは、家族が死んだのに自分一人が生き残った罪悪感からピーターの罪をかぶろうとした、それは間違っていたとフォイルに告げます。マイダネクの生存者の中に娘のマリアンカがいるらしいと。

話が終わったと思い席を立とうとするノバクに、フォイルは「映画はどうでしたか」と声をかける。

ヨハンが殺された日の夜、クロスビーの映画を見ようと映画館の前に並んでいたノバクに、フォイルは偶然会っていました。このとき映画のフィルムは届かず、代わりにコメディとニュースが流されました。マイダネクに関する映像は耐え難い惨状でした。フォイルは捜査でそのことを知り、ノバクがヨハン殺害の犯人だと確信していました。

ノバクは悲惨なニュース映像に耐え切れず、途中で席を立ってしまいました。歩き回っている途中で、収容所を脱走してローズの家に向かうヨハンと偶然出会い、ナチスに対する感情をヨハンにぶつけ、ヨハンを殺害してしまいました。

「私は沸き上がったどす黒い気持ちを彼にたたきつけてしまった。ナチスと変わらない。不思議なものだ。私は科学者で理性的な人間だが、人生における重要な出来事は偶然で決まるという事実から目を背けることはできない。」

 ノバクは偶然パリに出張していたからマイダネクで死なずにすんだ、偶然クロスビーが好きだったから映画館でマイダネクの惨状を伝えるニュースを見てしまった、偶然その後ドイツ人のヨハンに出会ってしまった。偶然が重なって起きてしまった事件。

ノバクがトミーに湖で言った言葉を思うと、胸が痛みます。

 思えば第1話『ドイツ人の女』から、イギリスでドイツ人というのは「敵」でした。戦うべきなのはヒトラーで、民間人には善人もたくさんいるとわかってはいても、大切な人を亡くした大きな悲しみから身近なドイツ人に怒りが向いてしまうのは、どうしようもないことかもしれません。けれど、ノバクが言ったようにそれは一時的な思いで、時間が経ち悲しみを受け入れられれば、怒りを向けた相手を抱きしめることもできる、そうであってほしいと思います。しかし相手を殺してしまっては、もう抱きしめて謝ることはできません。

 

家出少年トミーは、父の本音を聞き、家に帰ることにします。

フレッドは、息子ダニエルのために、ローズとちゃんと向き合おうとします。

「常に希望はあります」

というフォイルの言葉が思い出されます。

ブルックがみんなに声をかけていたサッカーの賭けは、フォイルが大穴をあてました。フォイルは「偶然」と言っていましたが本当でしょうか?フォイルのことなので、ちゃんとデータを読んだ結果かもしれませんよね。

 

今回は、ミルナーが最後に言う

「悲しい事件でした」

という言葉が事件をよく表しています。

 

おまけ

少しの間イギリスに行っていたのと、日本に戻ってからも忙しかったのとで、感想を書くのがだいぶ遅くなってしまいました(この次の回の『警報解除』まで放送終了しています。そちらの感想もこれから書きたいと思います)。

イギリスでは、このドラマの舞台ヘイスティングズにも行ってみたかったのですが、時間がなくて行けず。次回イギリスに行くときには行ってみたいです。

 

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