糸をほぐす

頭の中のからまった糸をほぐすように、文章を書いています。

1人の孤独と誰かといるときの孤独

再放送中のドラマ『SHERLOCK』シーズン2エピソード3を見て、「孤独」というものについて思うことがあったので書いてみます(『SHERLOCK』の考察については、別の日にまとめたいと思います)。

 

1人でいる孤独は、最初からさびしいとわかっている。一緒に話したり笑ったり悲しんだりしてくれる相手がいない、取り残される孤独。

人と一緒にいるときの孤独は、それとはまったく違う。人に理解されない孤独。親しい相手といるときほど深くなる。それを解消するのは難しい。というか、ほぼ無理なのではないかと思う。人が誰かを完全に理解することなんてないし、誰かに完全に理解されることなんてない(完全に理解されてしまったら、やりづらいことだって多々あるんじゃないだろうか)。

 

「Alone protects me.」

シャーロックのセリフ。誰かと理解しあいたいという期待が裏切られ続けたり、あまりにも理解不能な人と出会ったりすると、私も思う。ああもう1人でいい。人と一緒にいるのは、その相手のことを好きでも嫌いでも、とてもエネルギーを使う。

 

「誰も私を理解してくれない」と暗い部屋の中で何時間もひざを抱えた10代の頃から、もう随分な時間が過ぎた。今は理解されないことに慣れてしまった。他人を理解できないことにも。しかたないじゃない、と思う。

理解できないなんてわかっているのだから、どうでもいい他人とは理解しあわなくていい。でも、理解したいと思う人と出会ったときは、その気持ちを持ち続けるようにしている。それをなくしてしまったら、その人との関係は続かないから。

 

本当は、シャーロックのセリフには共感する。他人と理解しあうという決してできないことにエネルギーを使うより、他のことをした方がいいのかもしれない。

ジョンのように

「Friends protect people.」

 とは今の私は言えない。1人の孤独と、誰かといるときの孤独、その2択がすべてとは思わない。けれどどちらかを選んで生きていくとしたら、どちらの生き方もあると思う。

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『SHERLOCK』シャーロックとジョンの関係を読む(シーズン1)

このドラマについて今さら私が書くこともない、と前回『SHERLOCK』についての記事で書いたのに、書いてみると好きなものについて書く楽しさを止められなくて、性懲りもなくまた書いている。こんなにも世界中の人たちの興奮と想像力をかきたてるこのドラマってなんなんでしょう。

シャーロックとジョンの関係は、出会いから少しずつ変わっていって、お互いに信頼を深めていくように見えるけれど、ときどき2人の本心がよくわからないところがある。そんなわけで、再放送を見ながら2人の関係を振り返ってみたいと思います。

 

S1E1『A Study in Pink(ピンク色の研究)』

ジョンと出会うまで、シャーロックにとっての友達は頭蓋骨だけだった。

ジョンがはじめてベイカーストリート221Bを訪ねたとき、部屋にある頭蓋骨を杖で指し

「The skull?」

と聞く。

「A friend of mine.」

おそらく、ジョンと出会うまでのシャーロックは1人でいるのが当たり前で、自分よりレベルの低い人たちに合わせなければいけないなら、1人でいた方がいいと思っていたのだろう。しかしジョンと出会って、シャーロックは人と一緒にいることの楽しさと1人の孤独を知ったのだろう。いや、話しかけても反応しない骸骨を友達に見立てている時点で、孤独ではあったのかもしれない。小さな子が、遊んでくれる相手がいなくて人形相手に遊ぶように。話すことができない相手でも、「友達」とか「相棒」と呼べる存在がシャーロックには必要だった。

ジョンは戦地から戻ったばかりで、気力を失くしていた。マイクロフトが分析したように戦場が恋しかったのだろうか。マイクロフトがジョンを呼び出すシーンは印象的だけれど、変人の弟と一緒にいる男に対する兄の面接だったんだろうなあ。

退屈な日常より刺激的な戦場を求めてシャーロックと一緒にいようと思ったなら、シャーロックとジョンは似ている。

このエピソードでは、シャーロックの自己顕示欲が犯罪者に転じるきっかけとなる可能性があることを示唆される。それを止められるのはジョンなのだろうか。

しかしここで気になるのは、このエピソードでシャーロックは誰も殺していないが、ジョンは違う。躊躇なく冷静に人を撃つ。軍人の経験からかもしれないが、もっと深い心の闇があるのだろうか。

 

S1E2『The Blind Banker(死を呼ぶ暗号)』

エピソード1から少しだけ2人の関係性は変化している。

自分にとって特別な存在だと感じているジョンを、シャーロックは失いたくない。

だから、シャーロックは何者かに221Bで襲われたとき、ちょうど買いものに出ていたジョンにはそのことを話さなかった。ジョンが部屋を出て行ってしまうのが怖かったのだろう。

シャーロックに調査を依頼してきたセバスチャン(シャーロックの大学時代の同級生)を2人で訪ね、ジョンを紹介したときに言った、

「This is my friend.」

このfriendという単語を強調して言っているのを聞くとわかるように、シャーロックは自分にも友達と呼べる人がいるのだとセバスチャンに言いたかった。ジョンにはあっさりと同僚だと言い直されてしまうのだけど。

ジョンはこの時点では、シャーロックを友達だと認めていない。

このエピソードでは、2人の気持ちはすれ違い続ける。

失踪したスーリンの部屋でシャーロックが襲われたときには、油断して襲われたかっこわるい自分をジョンに知られたくなかったのか、そのことを隠す。そのことがジョンに、ないがしろにされているという気持ちを起こさせるかもしれないなんて思いもしない。ここで見えるのは、初めてできた友達への接し方におけるシャーロックの不器用さ。

 中国の密輸団がかくれみのにしているサーカス団のショーの客として入ったときにも、デート中のサラと2人になりたいジョンに

「I need your help.」

とシャーロックは伝えるが、ないがしろにされていると思っているジョンには響かない。

 

S1E3『The Great Game(大いなるゲーム)』

シャーロックの気持ちがジョンのそれを上回っている。このエピソードでの、好きな相手(ジョン)に対するシャーロックの子どもっぽさが私はけっこう好きだ。

シャーロックは、はじめての友達に対してどう接したらいいかわからない。知識が偏りすぎているという欠点を指摘されたシャーロックは、自分には必要ない知識だと反論し、すねたようにソファーに寝転がりひざを抱える。何を言っても反論されるジョンは、外へ出かけてしまう。窓からジョンの姿を見るシャーロックは、かまってほしいのに素直になれない恋人のようだ。事件が起きるのを待ち望むのも、ジョンと一緒に事件を追うのが楽しくて仕方なかったからじゃないか。

レストレードから依頼の電話を受けたシャーロックは、スコットランドヤードにジョンを誘う。一瞬戸惑った顔をするジョンは、シャーロックの捜査に自分が必要だとはわかっていない。ここで原作のホームズのように

「心から信頼できる友人がそばにいてくれるかどうかで、僕の気持ちは天と地ほどのひらきが出てくる」

シャーロック・ホームズの冒険東京創元社 コナン・ドイル作 深町真理子

 なんてシャーロックが言えたらね。

人質の命を最優先で考えるジョンに対し、ゲームを楽しんでいるように見えるシャーロックをジョンは理解できない。シャーロックとジョンのこの考え方の違いは、2人がどんなに親しくなったとしても決してうまらないだろう。

太陽系についてもう少し知っていたら、もっと早く事件を解決できたとシャーロックが認めるのを待っているというジョンに対し、シャーロックはやはりそれを認めない。少し力の抜けた声で話すジョンは、シャーロックを理解することをすでに諦めているようにも見える。

真夜中のプールにモリアーティを呼び出したシャーロックだが、ジョンを人質にとられてしまう。自分以上に犯罪をゲームとしてしか思わないモリアーティと話し、シャーロックは自分はモリアーティとは違うと感じる。

ジョンは体を張ってシャーロックを銃から守ろうとする。このことで2人は信頼は深まる。シャーロックはうまく感謝を伝えられなかったけれど。

 

余談ですが、E1の最後でジョンはマイクロフトがシャーロックの兄だと聞き、てっきり・・・だと思った、と言いかけるのだけれど、多分ジョンは、マイクロフトのことをシャーロックの元彼と思ったんじゃないのかな。マイクロフトのセリフは、聞きようによってはそう聞こえるし(気にかけているだの同じ側にいるだの)。私はマイクロフトの底知れない感じ、好きです。

 

 

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『SHERLOCK』シャーロックとアイリーンの関係を読む

 ドラマ『SHERLOCK』についてはもう多くの方が書かれているので、今さら私が書くこともないかとは思っていたのだけれど、NHKBSプレミアムでの再放送を見ていて、以前に見たのとはちょっと印象が変わったので、やはり書き残しておこうかなと思う。

もともと子どもの頃にドイルの原作を夢中で読んでいた。このドラマを見てから原作を読み直してもいて、原作と比較しながら見てしまう。

 

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アイリーン・アドラーという女性は、原作ファンにとってはもちろん特別な存在で、『SHERLOCK』ではどんなふうに描かれるのだろうと思っていた。

原作『ボヘミアの醜聞』では美貌と知性を持ったオペラ歌手だった。ドラマではS1E1『ベルグレービアの醜聞』で登場するが、SM女王になっていたのは意外だった。

このエピソードでシャーロックとアイリーンの関係はいろいろな解釈ができると思うけれど、私なりの解釈を書いてみます。2人の関係を読み解くには、シャーロックの2つのコンプレックス、兄マイクロフトに対してのものと、童貞であるということがキーだと思う。そしてエピソードの結末をどう解釈するかは、彼のコンプレックスを利用するようアイリーンに伝えたのはモリアーティだということを考えに入れなければいけないと思う。

 

アイリーンとシャーロックの最初の出会い。

原作ではホームズは牧師のふりをしてアイリーンの家にあがりこむ。アイリーンはこのとき、牧師がホームズが変装している姿とは気づかない。けれど彼女はあとからそれに気づき、男装してベーカー街を訪れホームズに声をかける。ホームズはそれがアイリーンの変装とは気づかない。

ドラマでは、アイリーンに会いに行く前に服をとっかえひっかえして何を着ようかと悩むシャーロック。シャーロックを迎えるアイリーンも同じく。まるでデート前のカップルだ。シャーロックがアイリーンの家に入ると、アイリーンは余裕で、何も身につけない姿でシャーロックの前に現れる。それはシャーロックの度肝を抜いて優位に立とうという作戦でもあるけれど、アイリーンにはそれ以上に確かめたいことがあった。それはシャーロックが女に興味があるのかどうかということ。

ここで、終盤のアイリーン、シャーロック、マイクロフト3人のシーンで、アイリーンが言ったことを思い出す。モリアーティはホームズ兄弟への接し方をアイリーンに教え、シャーロックをvirgin(童貞)と呼んでいたと。それを聞いたアイリーンは、女に免疫のないシャーロックが自分を女として意識すれば、シャーロックをうまく操れると考えた。けれどシャーロックが女に興味がなければその作戦は通用しない。だからシャーロックを試した。何も着けずにシャーロックの前に現れ、自分を見てシャーロックが金庫のパスコードを解けたら(パスコードはアイリーンのスリーサイズ)、シャーロックは女に興味があると推測できる。シャーロックはパスワードを解く。それを見てアイリーンがうっすらとほほ笑んだのは、彼が女に興味があるとわかり、自分が立てた計画どおりに進められると思ったからだろう。これ以降アイリーンは、どうしたら女に対する興味を自分に向けさせその気持ちを利用できるかを考えて、シャーロックに接していたと思われる。

 

シャーロックは金庫からアイリーンの携帯を奪ったが、アイリーンはシャーロックに薬を打って意識を奪い、携帯を取り戻す。このとき、アイリーンは携帯に何かを打ち込んでいるけれど、ここで携帯のパスコードをあのコードに変えたのではないかと思う。

 

シャーロックが薬の作用で意識を失い、その間に彼のコートとともに彼の携帯も持ち去ったアイリーンは、その夜シャーロックにコートと携帯を返しに来た。携帯の着信音はアイリーンによって変えられ、アイリーンのメールが届いたときには彼女の甘い声が聞こえるように設定されている。

携帯の着信音なんて気に入らなければすぐに変えることができるのに、シャーロックはそれを変えない。彼の態度を見ていると、むしろその声を聞くのが嬉しくさえあるようだ。すっかりアイリーンの術中にはまっている。シャーロックはメールが届くたびにアイリーンの甘い声を聞き、その姿を思い出す。1日に何度も。それは恋に似た感情を産んでいく。うぶで孤独な坊やは女王様に太刀打ちする術を知らない。

 

国家機密レベルの秘密を知るアイリーンは、常に命を狙われる危険にある。アイリーンは追っ手を欺くために自分の死を偽装する。アイリーンが死んだと思い、シャーロックは失恋したように食事もせず、しゃべらず、バイオリンで悲しい曲を弾いている。

  

 再びシャーロックの前に現れたアイリーンにそそのかされ、シャーロックはある暗号を解く。アイリーンは暗号の意味をモリアーティに伝える。モリアーティは暗号を解いたことをマイクロフトに伝え、マイクロフトは時間をかけて進めていた国家レベルの作戦が決行できなくなったことを知る。

アイリーンはこの暗号を解かせるためにシャーロックに近づき、シャーロックを利用するようアイリーンに持ちかけたのはモリアーティだった。

マイクロフトはシャーロックを呼び出し、シャーロックが暗号を解いたことで大きな作戦が無駄になったことを伝える。それはシャーロックが好きな女にかっこいいところを見せたいと思ってやったことであり、恋する男の子が教科書どおりに行動した結果なのだと。自分はアイリーンにただ利用されていたのだと悟るシャーロック。そこへ現れたアイリーンは

「Mr.Holmes.」

と声をかけるが、声をかけた相手はシャーロックではなくマイクロフト。誰かがホームズ、と呼ぶとき、呼ばれるのは自分ではなく兄のことなのだ。アイリーンはマイクロフトに、自分の持っている情報を買い取り、自分を保護してほしいと要求する。好きな女に利用され、しかも彼女が頼ったのは自分の兄だとは。シャーロックのプライドはずたずたになっただろう。

 アイリーンは持っている国家機密情報と交換に、大金と自身の保護をマイクロフトに確約させる。

ここまではおそらくモリアーティが描いたシナリオだった。

 

アイリーンが、モリアーティに助言をもらったと言うのを聞き、シャーロックの顔つきが変わる。モリアーティが関わっているなら、彼の目線で一連の出来事を組み立て直さなければならない。モリアーティに負けることはシャーロックのプライドが許さない。

モリアーティにとってはアイリーンもゲームの駒のひとつでしかない。ホームズ兄弟を出し抜いて大金をせしめようが、うまくいかずに命を落とそうがどちらでもいい。それがモリアーティの用意したシナリオの結末だ。シャーロックはそのどちらでもない結末にシナリオを書きかえる必要があると思った。そうでなければモリアーティとのゲームに負けることになる。

恋に流されていたシャーロックがここからモリアーティとの対決に頭を切り替えたとして、その解釈でシャーロックとアイリーンのセリフを追っていくのだけれど、やはりどう読むのかは難しい。

 

シャーロックはモリアーティのシナリオを破るひとつの可能性に賭けた。それはアイリーンのパスコード。けれど彼は自分の恋を捨てられなかった。

シャーロックは、前夜アイリーンの手を取ったとき実は彼女の脈を測っていて、そのときアイリーンの脈は恋の作用で早くなっていたと言った。けれどシャーロックが言ったことは事実だったのか。私は、アイリーンの脈の早さはいつもと変わらず、脈が早かったのはシャーロックの方だったのではないかと思う。シャーロックは自分とアイリーンの気持ちの温度差に初めて気づいたのではないか。

それなのにアイリーンの脈のことで嘘をついたのは、それがシャーロックの願望だったからなのか、アイリーンに何かのメッセージを送っていたのか。その両方ではないかと思う。

シャーロックはアイリーンの携帯にパスコードを入力していく。それは、これであってほしいとシャーロックが願うパスコードだ。もしパスコードが自分の思ったものだったなら、シャーロックは、アイリーンが自分に対してしたことを許して、自分の命を賭けてもアイリーンを救おうと思っていた。けれど全く違うパスコードなら、完全な失恋をし、この世からアイリーンを失う。だから、ひとつひとつゆっくりと入力していく。愛は危険な代物だというセリフは、アイリーンにではなく自分に言ったのではないだろうか。

アイリーンはそれに気づき、シャーロックを止めようとする。

「I'm just plaing the game.」

ゲームをしているだけなのだから、シャーロックが命を賭ける必要はない。

I know.」 

わかってると言うシャーロック。いつの間にこんな大人の会話ができるようになったんだシャーロック。

2人が小声でこの言葉を言うのは、マイクロフトに聞かれないようにするためだ。 2人が新しいゲームを始めたことを他人に知られてはいけないから。

シャーロックはパスコードを解く。それは、シャーロックが求めていたものだった。

 「I am  SHERLOCKED.」

このパスコードは、アイリーンからシャーロックへのメッセージであり、モリアーティのシナリオでは用意されていないものだった。シャーロックはモリアーティのシナリオを破る賭けに勝ったのだ。

これでモリアーティのシナリオからシャーロックのシナリオへと書きかわった。マイクロフトの前で、シャーロックとアイリーンは、新しいシナリオで自分に与えられた役割を演じる。表面上は、モリアーティのシナリオが壊れていないように見せなければ、アイリーン救出はモリアーティに邪魔される可能性があり、そのためにはマイクロフトもジョンも欺かなければならない。

 そして、カラチで窮地に陥ったアイリーンをシャーロックが救う。

 そのあとアイリーンは彼女の1ばん得意な分野でシャーロックにたっぷりお礼をしたのだろう。シャーロックは2つのコンプレックスのうち、1つは手放せたのではないかな。

 シャーロックにとってアイリーンは初めての女性になり、アイリーンにとってシャーロックは命の恩人として記憶に残り続ける。

そういう結末だったのではないかと思う。

 

アイリーンのパスコードについて追記。

おそらくアイリーンは、シャーロックがパスコードを解くことも見越していたのではないか。とすれば、それはシャーロックに対するメッセージだったと考えられる。アイリーンは女のカンのようなもので、最後の最後に頼れるのはマイクロフトではなくシャーロックだと感じていたのだろう。シャーロックはマイクロフトにはないものを持っている、だからコンプレックスではなく、自分は自分なのだと自信を持ってほしいというメッセージをパスコードに託した。それはきっと母性のようなものだったのではないかな。

アイリーンは、もっと早い段階でシャーロックがパスコードに気づくと想定していたのかも。でも恋に流されるシャーロックは気づかなかった。もしもっと早く気づいていたら、その時点でモリアーティのシナリオから抜け出し、アイリーンの描いたシナリオに移行していたのかもしれない。

けれどゲームが終わるぎりぎりのところで、シャーロックはやっと気づいた。アイリーンのシナリオからしたらそれは遅すぎたのだけれど、シャーロックは恋する男を貫きたかったのだと思う。

 

<2017.08.29追記>

いやシャーロックはアイリーンとの間でコンプレックスを手放せてないのね。と、このあとのエピソードを見て思った。

アイリーンはそんなに甘い女じゃなかった。命を助けられたからといって、 相手に欲しいものを与えるようなことはしない。きっと、ふふん、ありがと、とか言って去っていってしまう。

でもシーズン4の最終エピソードで、シャーロックは兄に対するコンプレックスは手放せたんじゃないか。そして、きょうだいの、家族の形が変わっていくんだろう。

 

 

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『クイーン・メアリー』の半生(出生からスコットランド女王退位まで)

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 ドラマ『クイーン・メアリー』より

『クイーン・メアリー』シーズン1の放送が終わって約2か月。続きが気になります。

メアリーロスをうめるために、メアリー・スチュアートの生涯について調べてみた。出生からフランスでの生活、フランソワとの結婚、スコットランドでの2度の結婚と女王退位までを書いてみようと思う。

 

メアリー・スチュアートの出自

メアリーの父はスコットランド王ジェームズ5世、母はフランスの有力貴族ギーズ家の一員マリー・ド・ギーズ。ジェームズ5世はイングランド王ヘンリ7世の孫であり、メアリーはイングランド王の曾孫であったのでイングランドの王位継承権があった。

メアリーには腹違いの兄がいた。ドラマにも登場するマリ伯ジェームズ・スチュアート。ジェームズはプロテスタントだった。ドラマではシーズン1第18回『祖国の危機』に登場し、スコットランド国民はフランス人のマリー・ド・ギーズではなく、メアリーの統治を望んでいると言い、メアリーにスコットランドへの帰還を促す。しかしスコットランドへ向かう船の中でメアリーを殺害する計画があることが明らかになる。この計画にジェームズ・スチュアートが加担していたのかどうかはわからずじまいだった。愛人の子として庶子の扱いを受けるジェームズ(のちに嫡出子と認められた)は、女王という立場の妹メアリーに複雑な思いを抱いていただろう。

一方、メアリーとイングランド王位を争ったエリザベスは、イングランド王ヘンリ8世の娘。ヘンリ8世は生涯で6度結婚し、エリザベスの母アン・ブーリンは、ヘンリ8世の2人目の王妃だった。エリザベスが生まれたとき、男子ではなかったことにヘンリ8世は落胆した。その後も男子を産めないアン・ブーリンから気持ちが離れ、ヘンリ8世はアン・ブーリンを不義密通の罪で処刑した。このことでエリザベスは庶子となった。

 

メアリーの結婚

スコットランド女王として、結婚は常に国益が優先して考えられた。母マリ・ド・ギーズが選んだのは、フランスの王太子フランソワだった。父の死により生後6日でスコットランド女王となったメアリーは、他の者を王に擁立しようとする人々から命を狙われた。メアリーを守るため、マリー・ド・ギーズは6歳のメアリーをフランスへ送った。

この時代のスコットランドについて過去記事で書いています。

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成長し、背が高く優雅と威厳を持ち合わせた美貌のメアリーは「フランス宮廷の華」と呼ばれたという。6か国語を話し、ルネサンス時代の文化を吸収し、詩作、音楽、絵画など芸術にも才能があり、馬術や舞踏など体を動かすこともうまくこなした。

夫フランソワは、生まれつき体が弱く体も小さかった。フランス王になるにしては頼りなかったかもしれないが、メアリーとフランソワは幼少時から一緒に過ごした幼なじみでもあり、結婚しても仲がよかったらしい。

1558年にメアリーとフランソワは結婚した。のちのメアリーのたどった道を思うと、この時代が最も幸せだったかもしれない。

1559年にフランス王アンリ2世が死去し、フランソワがフランス王となった。しかし、フランソワは1560年に16歳で亡くなり、メアリーは未亡人となった。

 

スコットランドの宗教対立

スコットランド宗教改革の中心となったのはジョン・ノックスだった。

彼は当初カトリックの聖職者を務めていたが、ルター主義的改革のために働くようになった。宗教改革者としてフランスと戦った彼は、フランス軍に捕囚された後、メアリー・テューダーの「カトリック反動」時代にはジュネーヴに亡命して、カルヴァンの影響を受けた。1555年にはいったんスコットランドに帰国し、59年に再帰国後、カルヴァン主義的改革の支持者をえて、カトリック教会を攻撃し、プロテスタント教会体制を樹立した。

スコットランドの歴史』リチャード・キレーン著 彩流社

 1560年、スコットランドでは会衆指導派(プロテスタント)は、スコットランドプロテスタント国であると宣言した。彼らはミサを禁止し、これは「スコットランド信条」として知られる文書で成文化された。

その翌年、メアリーはスコットランドに帰国する。すでにプロテスタントを受容していたスコットランドでは、幼少期からカトリックの教えを受けてきたメアリーにとってやりづらいことも多々あっただろう。メアリーはノックスを呼び寄せ、私的なミサを執り行いたいと主張するが、ノックスはそんなメアリーを非難した。ノックスはメアリーとの討論で一歩も引かなかった。メアリーはカトリックプロテスタントのどちらかを優遇するのではなく、寛容策を取るようになった。

 

メアリーの2度目の結婚

未亡人とはいえ若く美しいメアリーには、多くの縁談が持ち込まれた。メアリーが再婚相手に選んだのは、ダーンリー伯爵ヘンリー・スチュアートだった。

エリザベスはこの結婚に反対した。ダーンリーは、ヘンリー8世の姉マーガレットの孫にあたり、イングランド王位継承権を持っていたので、メアリーとダーンリーとの結婚は、メアリーのイングランド王位継承権を強めることになる可能性があった。また、カトリックのメアリーが、熱心なカトリック信者のダーンリーと結婚すれば、ローマ教皇スコットランドへの発言力が強まる可能性もあった。しかし、メアリーは反対を押し切り、1565年、ダーンリーと再婚した。

最初は仲良く結婚生活を送っていた2人だったが、1年もたたないうちにメアリーはダーンリーに愛想をつかしてしまう。メアリーはイタリア人秘書のデビッド・リッチオを寵愛する。リッチオの影響で、それまでカトリックプロテスタント対立に対しメアリーがとっていた宗教的な寛容政策は弱められ、カトリックを積極的に推進する方向に転換された。ダーンリーは、メアリーとリッチオの仲を疑い、宗教政策に不満を持つ貴族たちと一緒にホリルード宮殿に押し入り、リッチオを殺害した。

このとき、メアリーは妊娠していた。1566年、メアリーは男の子(のちのジェームズ6世)を出産した。子どもが生まれても、メアリーとダーンリーとの仲はもとに戻らなかった。

 病気になったダーンリーを、メアリーはエディンバラ近くの館に移した。1567年2月の夜、ダーンリーのいた館が爆破され、ダーンリーは死亡した。この事件はボズウェル伯爵が首謀者とされ、メアリーもその共犯だと噂された。

 

メアリーの3度目の結婚

ボズウェルはその後メアリーを誘拐し凌辱したが、この行為はメアリーの同意を得ていたと言われている。ボズウェルは妻と離縁し、メアリーと結婚した。結婚は、ダーンリーの死亡から3か月しか経っていなかった。国民はこの結婚に反発し、反乱へと発展していった。貴族たちはメアリーを退位させ、彼女の息子で生後13か月のジェームズ(のちのジェームズ6世)を即位させた。ボズウェルは逃亡中につかまり、獄中で狂死した。

 

メアリー退位後

メアリーの息子ジェームズの摂政には、マリ伯ジェームズ・スチュアートが就いた。メアリーは息子ジェームズにカトリックの洗礼を受けさせていたが、ジェームズ・スチュアートは彼にプロテスタントの教育をした。

メアリーは城に幽閉された。1568年に脱出し、6000名の兵士を集めたが、マリ軍に敗れ逃亡した。馬で駆け漁船を乗り継ぎ、元女王としては耐え難いような逃亡生活を送ったと言われている。何が彼女を動かしていたのだろう。女王の地位の奪還か、自分を退位させた者たちへの復讐心か。

スコットランドからフランスに渡る選択肢もあったが、メアリーが助けを求めたのはエリザベスのいるイングランドだった。25歳のメアリーは、その後イングランドで幽閉生活を送り、44歳で処刑された。

 

 

イングランドに渡った後のメアリーの生活については、日を改めてまとめたいと思います。

 

<参考文献> 

悪女たちの残酷史 (講談社+α新書)

悪女たちの残酷史 (講談社+α新書)

 

 

図説 スコットランドの歴史

図説 スコットランドの歴史

 

 

 『クイーン・メアリー』について書いた記事  

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ベスト・アニメ100を見て、好きなアニメを好き勝手に書く

先日、NHKで放送されていた、ベストアニメ100という番組を見た。

10位以内にどんなアニメが入るのかと思ったら、『カードキャプターさくら』以外は知らないという結果(知ってはいるけれど、そう見ていない)。そんなにアニメを見ている方ではないと思うし、見ているものも偏っているから仕方ないか。

 

私のベストアニメは『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』で、10位以内には入っていると思った(27位だった)。

アニメじゃなくて漫画だったら手塚治虫作品も上位に入ってきたのかもしれない。原作がすごいと、アニメでそれを超えていくのは難しいものなあ。『火の鳥』をアニメで見ても、最初に漫画で読んだときの衝撃を超えなかったもの。『三つ目がとおる』は好きだったけど(でも原作は読んでない)。先に見たのが漫画かアニメかによっても違うだろうし。

小説のドラマ化と違って、漫画のアニメ化はすでにキャラの顔が決まっているので「これは絶対違うよね!」っていうのは少ないように思うけれど、それだけにアニメ製作者にとってはどうやってアニメのよさを出していくかは葛藤があるかもしれない。『MONSTER』は漫画もアニメもよかった。アニメは漫画のイメージをくずしていないし、アクションシーンは漫画にはない迫力があった。特に終盤に出てくるルーエンハイムでのシーンは印象に残ってる。

漫画が先でアニメが後だと、声が全然イメージと違うよ!というときもある。だけれど初めてミッキーマウスの声を聞いたときの衝撃に比べたら、たいしたことはない。

 

子どもの頃、『ミラクルポールの大冒険』と『ニルスのふしぎな旅』を楽しみにしていた。

『ミラクルポール』はたしか、異世界に連れ去られた幼なじみの女の子を男の子が連れ戻しに行く話だった。異世界では血の雨が降って洗濯ものが赤く染まったりとなかなかシュールな場面もあった記憶がある。女の子は異世界でわるものにあちこち連れまわされ、だから男の子は毎回違う町をさまよい女の子を探し歩くという旅ものでもあった。

ニルスのふしぎな旅』は、いたずらがすぎて妖精に魔法をかけられ小人にされてしまったニルスが、ガンの群れとともに旅をしながら成長していく話。小人になったニルスの無力さや、旅の途中の出会いと別れが子どもながらに切なかった。中学のときに読んだラーゲルレーヴの原作もよかった。

基本的に旅ものは好き。『花の子ルンルン』『ドラゴンボール』、『ハガレン』もそうだなあ。

 

ランキングで90位に入っていた『ふしぎの海のナディア』も好きだったな。『エヴァンゲリオン』と同じく庵野秀明監督で、どちらもオープニングの歌と映像のシンクロ率が高い。 

 

残酷な天使のテーゼ

残酷な天使のテーゼ

 『ナディア』では父と娘の関係が描かれ、『エヴァ』では父と息子、大きな事故による生き残りのエレクトラはミサトになり、でもエレクトラの外見はリツコに引き継がれている、なんて思いながら『エヴァ』を見ていた。

私は『エヴァ』より『ナディア』の方が好きだ。NHKの番組内でも出た意見だけれど、『エヴァ』は心がえぐられるもの。人に見せたくない心の暗い部分をこれでもかと見せられるのは、疲れてるときには非常にしんどい。

ちなみに私は綾波レイ派。

 

大人になってからだと『鉄腕バーディーDECODE』。ゆうきまさみさんの漫画をアニメ化したもの。宇宙連邦警察のアルタ人バーディーと地球人の高校生ツトムが主人公のSF。捜査のため地球に来たバーディーは、たまたまその場にいたツトムに誤って致命傷を負わせてしまい、ツトムの体を修復するまでの間、ツトムの意識をバーディーの体に移し、二心同体(バーディーとツトムの意識がバーディーの肉体に宿った状態)で生活する。

第2期『鉄腕バーディーDECODE:02』はさらによかった。バーディーの出生も明かされ、1期よりダークで重いエピソードが多かった。それとやさしいタッチの絵のわりにグロいシーンも多かった気がする。放送が夜の遅い時間だったので、もともと大人向けに作られたのでしょうね。第2期を見なければ、記憶に残るアニメにはならなかったと思う。

 

最近だと、現在第6期の放送中でランキング36位の『夏目友人帳』。子どもの頃に両親を亡くし、妖怪が見えることで親戚からもクラスメイトからも嘘つきと呼ばれてまわりになじめなかった夏目が、自分を引き取ってくれた親切な遠い親戚の元で高校生活を過ごす。すでに亡くなった夏目の祖母レイコも強い妖力の持ち主で、妖怪と勝負して負かしてその妖怪の本当の名を手に入れ、友人帳と呼ばれるものにそれを書きつけていた。本当の名を呼ぶことでその妖怪に意のままに動かすことができるため、多くの妖怪の本当の名が書かれた友人帳は、それを持つ者に力を与える危険なものでもある。夏目は、友人帳に書かれた本当の名を妖怪たちに返し、妖怪たちを自由にしようとする。

田舎の風景とか、なんてことない学生生活とか、ほわーんとした雰囲気のアニメ。 長く続くと途中でなんとなく感じが変わっていくアニメもあるけれど、『夏目』はブレないので安心して見られる。

そしてなんといっても、かわいいニャンコ先生が大妖怪斑になったときのギャップがたまらない。全くタイプの違う声を1人の声優さんが演じられているのも驚きで、これは漫画をアニメ化したときのよさ、なんだろうな。

 

アニメの映画なら、『時をかける少女』。何度見てもいいよなあ。

ジブリだと断然『紅の豚』。こちらも何度見てもいい。海と空にかこまれて暮らし、自分の能力だけで食い扶持を稼ぐ、ってロマンだわ。1ばんいいのは悪人が1人も出てこないこと。 

 

好き勝手に好きなアニメを書いてみた。楽しい。他にも見ていたアニメはたくさんあるけど(クリィミーマミとかルパンとかFateとか)、きりがないのでこの辺で。『ハガレン』について書くとそれだけで字数がうまってしまうので、今回は書かない。

これから見るなら、『銀河鉄道999』かな。

 

銀河鉄道999 [Blu-ray]

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 子どもの頃は絵が怖くて見なかったんだけれど、大きくなってから再放送をちらっと見たらおもしろそうだったから。 

逃げていく速さに追いつけなかった3月と4月

3月に退職し新しい職場で働き始め、生活の変化にうまくなじむことができず今に至っている。

そんなわけで、ブログもほとんど更新できていないし、本もあまり読めていないし、音楽も聞けていない。毎週見ているドラマはフォイル再放送と直虎くらいか。政次の直虎に対する態度は、決して手に届かない相手に対する屈折した愛情なんだろうな。高橋一生さんは「屈折」という言葉がなんて似あう俳優だろう。

 

5月の連休にはどこかへ行こうと思っていたのに、思っているうちに連休に追いつかれてしまった。こうなったらのんびり本を読んで過ごそうと思う。積んであったオルハン・パムクを読もう。それから読みさしのバルザックを読んでしまおう。夢枕獏陰陽師シリーズは図書館で借りた。ちなみにオルハン・パムクの作品では『黒い本』が1ばん好き。この本は私にとってパムクのベスト本というだけでなく、これまで読んできた中でもベスト本と言える傑作。思い出すだけでイスタンブールの路地を彷徨う美しい幻想に誘惑される。 

黒い本

黒い本

 

 

そう。幻想。

と言っていいのかわからないけれど、この世界はゲームの世界と同じくらい魑魅魍魎にあふれている。自分のミスを人のせいにしようとする上司も魑魅魍魎の一種だと思えば、対処方法を考えるのも少しは楽しいかもしれない。

 

この連休でなんとか5月に追いつき、時間の手綱をひいて歩いていきたい。でもあっというまに終わっちゃうんだろうな。生きていくって本当に前にしか進めない。

 

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『刑事フォイル 臆病者』

『刑事フォイル 臆病者』の感想を書いています。シーズン1の第2話です。ドラマは現在、NHK BSプレミアムで再放送中です。

 

原題は「white feather」、「臆病者」と訳されています。「white feather」とは、

(闘鶏の尾の)白い羽⦅戦いに弱いしるしといわれる⦆;臆病者の証拠

だそう(英和辞典『GENIUS』より)。ホワイトフェザーは、ドラマの中で出てくるホテルの名前でもあり、登場人物を象徴しています。

今回は3人の父親が出てきます。ホテルホワイトフェザーのアーサー、殺人事件の容疑者となるデビッド・レーンの父イアン、そしてフォイル。

3人の父親の息子への思い、このドラマでは何度も出てくるテーマであるユダヤ人に対する感情、そしてフォイルとミルナーとの関係の変化に注目しました。

 

 あらすじ&感想

1940年5月。

ミルナーはロンドンで偶然ガイ・スペンサーと出会いました。ガイはフライデー・クラブというナチス寄りでイギリスの戦争に反対している政治団体の中心人物。スペンサーは、これから講演をするから聞いていかないかと声をかけます。講演の後、ガイはミルナーを食事へ誘います。その頃、スペンサーの主催するフライデー・クラブのメンバーは、路地裏である男性を暴行し怪我をさせていました。

ヘイスティングズでは、イーディス・ジョンストンという女性が軍のキャンプ近くの電話線を切る事件が起きます。フォイルがイーディスに話を聞くと、彼女はドイツ軍があと数日で攻めてきて、イギリスもやられると言います。

フォイルとサムは、イーディスの勤務先であるホワイトフェザーというホテルに向かいました。ホテルのオーナーであるマーガレットとアーサーの夫妻に話を聞きますが、新しい情報はありませんでした。2人にはスタンレーという息子がいます。

 

フォイルたちは、イーディスのボーイフレンドで漁師をしているデビッド・レーンに話を聞こうと港へ向かいます。デビッドは、イーディスはもともと明るい性格だったが、変わってしまったと言います。彼の父親のイアンも、イーディスは最近港へは来ていないと言います。

ホワイトフェザーにスペンサーが到着しました。彼の他にも、外務省で働くハーウッドらが集まってきていました。彼らはフライデー・クラブメンバーで、ユダヤ人をよく思わず、イギリスの参戦に反対の意見を持つ者たちです。彼らの他には、ウールトンという男性が泊まっていました。ウールトンは、拳銃を持ってきていました。スタンレーはウールトンの部屋で拳銃を見つけ、そのことを父親のアーサーに伝えます。

夜になり、ホワイトフェザーではフライデー・クラブの勉強会が始まりましたが、その途中でヒューズが飛んで部屋が真っ暗になりました。突然銃声が響き、明るくなるとマーガレットが倒れていました。

フォイルは、ホワイトフェザーで捜査を開始し、スペンサーとその秘書のフレミングに話を聞きます。スペンサーは、拳銃で狙われたのは自分だと言います。話が終わりフォイルが部屋を出ようとすると、

「君はユダヤ系かな?」

と問いかけます。何か言いたそうな顔をしますが、何も言わずに部屋を出ていくフォイル。人種差別に対する彼の考え方が現れた態度だと思います。

殺人の捜査のためホテルに足止めされている宿泊客たちは、サムに運転手なら家まで送れと要求しますが、サムはフォイルに確認しなければと答えます。

「私に逆らうのか?」

と聞かれ

「はい。そういうことになります。」

と笑顔で答えるサム。さすがです。

 

フォイルの息子アンドリューからフォイルに手紙が届きました。パイロットになったアンドリューの近況報告。フォイルは、手紙をテーブルのアンドリューの写真の隣に置きます。息子を心配する無言の演技がとてもよいです。

 ホワイトフェザーでフレミングから、事件のあった日に庭で男を見かけたと聞き、デビッドではないかと思い、港へ会いに行きますが、デビッドはフォイルの姿を見て逃げ出します。その後デビッドは、ロンドンへ向かう汽車に乗るところを逮捕されました。

 フォイルは、ホワイトフェザーでウールトンと名乗っていた男に会いに行きます。ウールトンは偽名、本名はウルフで、電気店を経営しています。ウルフの甥イツァークはユダヤ系であるために、フライデー・クラブのメンバーに暴力を受けてひどい怪我をしていました。ウルフはそのことでスペンサーを恨み、彼を殺害しようとホワイトフェザーに行きましたが、撃ったのは自分ではないと言います。

ウルフの店を出た後、フォイルは陸軍情報部に強引に連れていかれます。そこで、フライデー・クラブに潜入している諜報員からフォイルのことを聞いた、お願いしたいことがあると言われる。その諜報員はフレミングかと言うフォイルに、陸軍情報部は驚きます。フォイルの目はごまかせませんね。

陸軍情報部のお願いとは、5日前に盗まれたある書簡を探してほしいというもの。書簡の内容は、イギリスがドイツとの和平交渉を望んでいるというもので、それが表に出るとイギリス国民の士気が下がることになります。おそらく、外務省勤務のハーウッドが持ち出してガイに渡し、スペンサーがドイツへ渡す算段だろうと推測はできますが、書簡が出てこなければ逮捕はできません。陸軍情報部は、フレミングが諜報部員だとスペンサーたちに知られずに書簡を探さなければならず、マーガレット殺害の捜査でホワイトフェザーに入れるフォイルに頼むことにしたのでした。フォイルはホワイトフェザーを再度捜索しますが、書簡は見つかりません。

フォイルは再び港へ向かい、デビッドの父親イアンと話します。イアンは、デビッドは人を殺したはずはない、出向命令が出たから船を出すためにデビッドを釈放しろと言います。これはダイナモ作戦と言われたもので、フランスのダンケルクに民間の船を招集し、フランスとイギリスの兵士を救出する作戦でした。多くの兵士たちが救出され、後にダンケルクの奇跡と呼ばれます。

「俺の船には20人乗れる。たったの20人かもしれない。だが何百隻もの船が力を合わせて同じことをすればすごいぞ。でもデビッドがいなければ船を出せない。俺一人では船を操れないんだ。だから釈放しろ。国の役に立ちたい。釈放してくれたら、神に誓って俺が必ず息子をあんたのもとに連れて戻るから。逃がしたりしない。この作戦さえ終われば戻ってくる。そしたら気が済むまで取り調べろ。必ず息子は潔白だとわかるはずだ。俺やあんたと同じに。」

イアンの言葉に胸を打たれて、フォイルはデビッドを釈放します。イアンとデビッドはダンケルクへ向けて船を出します。

 

ホワイトフェザーでアーサーが睡眠薬を多量に飲んで、自殺を図りました。フォイルはアーサーの息子スタンレーと話します。スタンレーは、母のユダヤ人差別に嫌気がさし、ホテルの所有者である母を恐れて何も言えない父親も嫌いだった、逃げ場のない家庭だったと言います。フォイルはスタンレーに嘘はいけないと言います。スタンレーがアーサーの遺書を隠したことを見抜いてそれを言わせようとしたのですが、スタンレーは遺書のことを言いませんでした。

フォイルは病院にアーサーを訪ね、遺書がなかったと伝えます。アーサーは、マーガレットが遺言を書き換え、ホテルの半分がスペンサーに遺贈されることになり、自分は妻もホテルも失ったために自殺を図ったと言います。

警察署へ戻るとスペンサーが来ていました。スペンサーは秘書のフレミングを釈放してほしい、苦情を申し立てると言います。なおもフォイルに言います。

「息子さんは現在、フランス北部の戦場にいる。あなたも同じだ。息子さんは空軍だとか。息子さんを失ってもいいのか?殺されてもいいのか?ヒトラーポーランドに侵攻したというだけで。」

スペンサーは、人の弱いところを突いてくる人です。このやり方で、今までも多くの人を自分の味方につけてきたのでしょう。ミルナーもその一人です。ミルナーは、警察へ戻って一生懸命仕事をしようとしていますが、妻のジェーンはミルナーが義足になった現実を受け入れられず、家庭はうまくいっていません。誰にも理解されないという気持ちにスペンサーはつけ込んでいたのでしょう。

スペンサーは部屋を出るとき、ミルナーに声をかけます。

「そうだ。あの貸した本を読み終わったら返してくれ。」

 

イアンがダンケルクから戻り、フォイルとサムは港へ向かいます。港は傷ついた兵士たちであふれていました。ダンケルクで悲惨な光景を見てきたイアンは、まだ何千人もの兵士が残っている、必ず助けに行くと言います。姿を見せないデビッドに悪い予感を持ちながらフォイルは、デビッドはどこにと聞きます。

デビッドは死んでいました。イアンは死んだデビッドを連れて帰ってきたのでした。

「こいつを置いてくれば兵隊をもう一人乗せられたが、連れて戻ると約束したからな。連れてきた。」

泣くイアンを見て、どんなにイアンに憎まれることになったとしても、デビッドを釈放せず、ダンケルクに行かせなければよかったとフォイルは思ったでしょうか。デビッドにアンドリューを重ねて見ていたのだと思います。

 

フォイルはイーディスに会い、デビッドが死んだことを告げます。フォイルは、イーディスの祖母がユダヤ人だとマーガレットに知られ、脅されて電話線を切ったのではないかと聞きます。イーディスはそれを肯定します。フォイルは、証拠不十分でイーディスを釈放しました。

「デビッドのこと忘れないよね。」

フォイルに聞かれイーディスは答えます。

「忘れない。」

 

フォイルは病院にいるアーサーを訪ね、妻マーガレットの殺害容疑で逮捕すると告げます。アーサーはマーガレットを憎んでいました。長い間実行には移せなかったが、マーガレットにドイツ軍が攻めてくると聞かされ、それが本当になればイギリスは混乱し、殺人事件の捜査をする人員も割けないだろうと妻殺害を計画しました。勉強会の夜、アーサーは全客室の明かりをつけてヒューズが飛ぶようにして、暗闇で目印になるようパイプに硝酸カリウムを混ぜて発光するように細工をしました。ヒューズが飛んで暗くなったとき、パイプを妻の前に置き、それを目印に妻に向けて銃を撃ったのです。しかしその後、息子スタンレーがドイツ軍は攻めてこないと言っているのを聞き、自分は妻殺しで逮捕されると思い、自殺を図りました。

「謝っておいてください。息子に。いい父親になりたかったと。」

と言うアーサーに

「彼はわかってますよ。」

と声をかけ、フォイルはアーサーの病室を出ます。

 

事件が解決し、フォイルはミルナーを呼んで話します。

フォイルは、事件の容疑者だったスペンサーに肩入れしているミルナーの態度を責めます。フォイルの息子アンドリューが空軍にいることをスペンサーに話したのもミルナーで、そのことでミルナーに対する個人的な信頼も裏切ったと伝えます。フォイルに批判され、ミルナーは本音を話します。

ノルウェーから生還して以来、僕がどんな気持ちかおわかりになります?特別扱いもいりませんし、同乗してくれとも言いませんが、なんでこんな戦争が起きたのか、何の戦争かもわからない。スペンサーはわかってくれて、こう言ってくれました。僕には何の非もないと。」

「そうする理由があったからだ。」

フォイルは、ミルナーがスペンサーから借りた本を手に持ち、外務省で盗まれた書簡のことを話します。本の表紙の裏にはナイフで切られたようなあとがあり、表紙と表紙の内側に貼られた紙の間にわずかなすきまができていました。フォイルはピンセットでそこから書簡を取り出しました。スペンサーは、捜索を受けない警官の立場のミルナーを利用して、書簡をミルナーに貸した本の中に隠していました。それを見たミルナーはショックを受け、辞表を出しましょうかとフォイルに言います。

「辞表などいらないよ。君がいなければ、仕事が進まないからね。それよりも、今回のようなことは一度限りにして、これからは私を信頼してほしい。個人的な事情はさておき、私と君とサムの3人で一丸となって捜査に臨むことが大事だ。わかったか。」

「はい。よくわかりました。」

 「よし。」

 2人は握手を交わします。やっと、3人が1つのチームになりました。

 

フォイルはデビッドの葬式に出席します。イアンと目が合い、息子が同い年だと言うと、イアンは無言で頷きました。

 

 

『刑事フォイル』について書いた記事

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