糸をほぐす

頭の中のからまった糸をほぐすように、文章を書いています。

『刑事フォイル 疑惑の地図』

『刑事フォイル 疑惑の地図』の感想を書いています。第5シリーズ第1話(NHK BSプレミアムでは2017年2月5日、2月12日放送分)です。

 

3月11日(土)~  第1シリーズからの再放送が始まるそうです!

www9.nhk.or.jp

 

あらすじ

<前編>

1944年4月。ドイツの敗戦が濃厚となる中、連合軍はドイツ本土への爆撃を続けていた。爆撃に使用する地図を作製していた空軍省の施設では、自分が作った地図のせいで罪のない人々が死んでいると悩む青年がいた。彼はドイツ人であるケプラー神父に心のうちを相談していたが、自殺未遂を繰り返す。一方、ヘイスティングズ署には新たな警視正が着任するが、署員の士気は下がるばかり。

<後編>

フォイルはパーキンズ警視監に説得され、一時的にヘイスティングズ署に復帰。さっそくヘンリーとメレディスの事件の捜査に取りかかる。ミルナーは運送詐欺事件の容疑者を取り調べていく中で、協力者に空軍省の施設関係者がいることをつきとめる。一方、サムはヘンリーの女友達から有力な情報を聞き出していた。

NHK 海外ドラマHP 『刑事フォイル』これまでのあらすじ より

 

詳しいあらすじと感想

フォイルの退職後、サムは警察をやめ、ミルナーは警察の仕事を続けています。

ミルナーは、運送詐欺をしていたビル・バートンという男を逮捕しましたが、彼は自分の友人たちが挨拶周りにくるかもしれないとミルナーを脅します。運送詐欺には軍内部に協力者がおり、この頃には軍も腐敗していたことがわかります。

ミルナーはフォイルの後任の警視正メレディスとうまくいっておらず、異動願を出そうと思っていることをフォイルに話します。その帰り、ミルナーは走ってきたトラックにひかれそうになります。ミルナーたちはバートンの仲間がやったのではないかと疑います。

サムの新しい勤務先ビバリーロッジでは、ドイツ爆撃のための地図を作製していました。そこで働いているヘンリーは、ドイツの町を爆撃し、民間人まで殺してしまう作業に加担していることに罪の意識を持っており、その悩みを教会の牧師ケプラーに相談していました。ケプラーは敵国ドイツからの亡命者でしたが、ヘンリーはケプラーを信頼していました。

ある日、ヘンリーは仕事中にドイツの町ホッホフェルトハウゼンの地図を見て、あることに気づき、ビバリーロッジを出ていきます。その後、ヘンリーは森の中で木にぶら下がった死体となって発見されました。ヘンリーのポケットにはホッホフェルトハウゼンの写真が入っていました。ミルナーは、一見自殺と見えるヘンリーの死を他殺と見立てます。

ミルナーの捜査では、ケプラーはホッホフェルトハウゼンという場所は知らない、イギリスに来る前はミュンヘンの教会にいたと言います。 

ある夜ミルナーメレディスが帰ろうと署を出たところを、メレディスは銃で撃たれ、ミルナーを「チャーリー」と呼び、死んでいきます。

チャーリーとは、メレディスの息子のことでした。メレディスは戦争で2人の息子を失い、生きる気力を失くしていました。メレディスはもとは有能な人でしたが、戦争の影響で変わってしまったのでした。ミルナーを息子と思って死んでいったことを「せめてもの救いだ」と言うフォイル。戦争の影がこんなところまで来ていました。

再び警視正の席が空いてしまい、警視監パーキンスはフォイルを訪ねます。パーキンスが要件を言う前にフォイルは何を言われるか察し、

「結論から言うと、お断りします」

と言います。しかし、パーキンスは今までのことを詫び

「君の他にはいないんだ」

とフォイルを説得します。前回の『戦争の犠牲者』でフォイルの代わりはいくらでもいると言ったパーキンスに、ようやくそれが間違っていたと認めさせることができました。フォイルは警察へ復帰します。

サムは、ヘンリーが同じ職場のアダムの秘密を握っていたことを突き止め、ヘンリーを殺した犯人はアダムではないかと疑います。サムはそのことをフォイルに伝えます。警察を退職しても、サムはいい仕事しますね。

ケプラーが何かを隠していると疑うフォイルですが、ケプラーはヘンリーが死んだ日にヘンリーと会っていないし、ホッホフェルトハウゼンという町も知らないと言います。

捜査を進めると、バートンの情報からビバリーロッジのフォースター中佐が運送詐欺に関わっていたことがわかりました。バートンはそのことでフォースターを脅迫し、自分の甥のアダムをビバリーロッジで雇わせていました。フォースターはヘンリーを殺していませんでしたが、能力のないアダムに地図を作らせて飛行機の搭乗員を危険にさらし、運送詐欺で戦争に使うお金を着服していたことについて、いずれ処置が下るとフォイルに言われます。

「よかった。ホッとした。正直、この日を待っていた。人生をやり直せたらとよく考える。恥ずかしく思っています。」

フォースターはフォイルに言います。負け惜しみなのでしょうか、それとも本心なのでしょうか。

ビバリーロッジから出ようとしたフォイルはウォーターロウという男性に呼び止められます。彼は空軍情報部所属で、ビバリーロッジからドイツに情報が洩れている疑いがあり、その調査のためにビバリーロッジに入り込んでいた人物でした。彼はフォイルの捜査に協力すると言い、ケプラーの供述書を見せました。それには、ケプラーはホッホフェルトハウゼンに5年間いたと記されていました。フォイルはホッホフェルトハウゼンの写真を確認し、ヘンリーが殺された日にケプラーに会おうとした理由と誰がヘンリーを殺したのかに気づきます。

フォイルは教会にケプラーを訪ね、ケプラーの供述書とミルナーに対する答えの矛盾を問い詰めます。ミルナーがその矛盾に気づく前に、ケプラーミルナーを殺そうとし、誤ってメレディスを撃ってしまったのです。ヘンリーも写真を見てホッホフェルトハウゼンに教会がないことを知り、ケプラーが仕事の悩みを聞くふりをして自分を裏切り、ドイツに情報を流していたと気づきました。ヘンリーを殺したのはケプラーでした。

「私は悪人じゃない。任務を果たしただけ。それはあなたが任務を果たすのとまったく同じだ」

というケプラーにフォイルはとりあわず、

「そういう詭弁に興味などない」

と告げます。銃を向けるケプラーに、外で待つと言いフォイルは背中を向けます。今までの話の中でも、こんなに緊迫感のあるシーンは初めてだと思います。

直後、ケプラーは銃で自殺します。

 

 シリーズも中盤に入り、書かれる内容が変わってきたように思います。長引く戦争が人の心にどう影響しているのかが書かれるようになってきました。 

宗教による救いはもう傷ついた人々の心に届かなくなってきています。大事な人が戦争で命を奪われ、「汝の敵を愛せ」というキリスト教の教えを信じることができません。

 そんな中、 ヘンリーの信仰心を利用したケプラーの行為は、許すことのできないことです。けれど、この人も戦争に勝つために任務を果たすという、国が唱える正義の犠牲になった人物と言えるのかもしれません。

今回もやはりサムのキャラに救われました。フォイルが警察に戻ったら、相談もせずさっさとビバリーロッジをやめてフォイルの運転手に復帰したり、フォイルは困った顔をしながらも嬉しいでしょうね。

 

『刑事フォイル』について書いた記事

 

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『カルテット』STORY5 夢と現実とプライド

夢に裏切られた経験がある人には、第5話はかなりしんどかったんじゃないかと思う。しんどい話だった。

「あきらめきれない人たち」

成功している人から見れば、もう終わっているのだ。終わっている夢を、あきらめきれない人たち。

真紀さんもすずめちゃんも別府くんも家森さんもそれはわかっている。だから、音楽事務所のプロデューサーから演奏を褒められても、素直によろこぶことはしない。よろこんだ後、ああやっぱり違ったのだと、理想と現実との落差に気づいて崖の上から突き落とされるような落胆を、もう味わいたくないと思うから。

「悲しいより悲しいのは、ぬかよろこび」

何度も何度もぬかよろこびをしたことのある人にしか言えないだろう、真紀さんの言葉(第2話)。

でも4人なら。別府くんが3人に言う。

 「しばらくは、しばらくの間は、カルテットドーナツホールとしての夢を見ましょう」

そしてまた、夢に裏切られる。

4人に仕事が舞い込んだのは実力が認められたのではなく、世界的音楽家ファミリーの一員である別府くんの弟に頼まれたから。

それでも4人は、演奏者のプライドを捨てない。どんな衣装でも、ダンスをさせられても、ステージで演奏できればそれでいい。

けれどそれさえ砕かれる。ピアノ奏者の到着が遅れているというだけのことで。ピアノと一緒にリハーサルする時間がないから、音源を流して演奏するフリをすればいいと言われる。演奏しなくていいのなら、ステージに立つのは自分たちである必要はない。演奏者のプライドを砕かれた屈辱にすずめちゃんは涙を流す。

「いいよ。やる必要ないよ。こんな仕事やる必要ない。」

ほらねやっぱり、わかってた、だからぜんぜん何ともない。そんな顔をする家森さんに、真紀さんは言う。

「家森さん、やりましょう。ステージ立ちましょう」

演奏者である自分たちが、演奏をせずにステージに立つ。真紀さんはもう、とっくに壊れた夢と、何度も突きつけられてきた現実とともに、プライドさえ自ら踏みつけてもっと先へ進んで行く。

「これが私たちの実力なんだと思います。現実なんだと思います。そしたら、やってやりましょうよ。しっかり三流の自覚もって、社会人失格の自覚もって、精一杯全力出して、演奏してるフリしましょう。プロの仕事を、カルテットドーナツホールとしての夢を見せつけてやりましょう。」

1人の演奏者としてのプライドを超えた、カルテットドーナツホールとしてのプライド。志のある三流でもいい。4人のその覚悟が、路上で、通りすがりの観客にかこまれての演奏につながっていく。

 

嘘をつかない人なんていない。

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「みんな嘘つきでしょ」

そんなこと、有朱が口に出して言うまでもない。 

真紀さんは、もちろんそれを知っているはずだ。なぜなら、真紀さんは秘密を追う者としては誰よりその才能を発揮しているから。別府くんが九條さんの気持ちを利用して恋の相談をしていることを見抜いたり、家森さんには猛暑で離婚はしないと即座に突っ込み、すずめちゃんが別府くんを好きなことも、すずめちゃんの過去をつかまえたことについては言うまでもなく。

「すずめちゃんなんて、嘘が全然ない人だし」

なんて、だから真紀さんがすずめちゃんにかけた言葉の呪いではないかと思ってしまう。

言葉の呪いは人を束縛する。言われた相手は、その言葉に沿うような自分でいようとする。真紀さんに信じてもらえる自分でいたい。でも自分はそうじゃない。

真紀さんの呪いはすずめちゃんに涙を流させ、嘘という鎧を脱がせてしまった。

言葉の鎧も呪いも一切合切

脱いで剥いでもう一度

僕らが出会えたら

おとなの掟

おとなの掟

  • Doughnuts Hole
  • J-Pop
  • ¥250

 絶対の掟は、時間が不可逆だということだと思う。

  

『カルテット』について書いた記事

 


 

 

 

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「あなたの人生は、いま何点ですか?」

 「LIFE!~人生に捧げるコント~」「LIFE!ANSWER」というコーナーの話。出演者が天の声からときどき投げられる質問。

→ NHK「LIFE!~人生に捧げるコント~」

 

自分の今の生活とか、何を優先して生きるべきかとか、目指している場所に対して自分がどの辺にいるのかとか、そんなことを考えさせられる。

1番記憶に残っているのはドランクドラゴン塚地武雅さんのときで、確か、2点、という答えだった。100点満点で。おもしろいことなんてなーんにもない、毎日同じことの繰り返し、というようなことをおっしゃっていた気がする。 

 才能を評価されてテレビで活躍していて、うまくいっているように見える人生でも、本人はそうでもなかったりするのだろうなあ。塚地さんは、結婚して子どもがいたりすれば違うのかもしれない、ともおっしゃっていたように思う。けれどそれはそれで、別の悩みや不満があったりするのだろうし。結局何をしていても、ないものねだりなんでしょうか、人生って。

 

私は80点、とか言いたいところだけれど、30点くらいか。いやこれから春へ向けての期待を込めて45点くらいにしておくか。どちらにしろ、50点は超えない、今のところ。

 

なんてことを考えながら通勤中、「LIFE!」に出演されている星野源さんの「桜の森」を聞いていた。 

桜の森

桜の森

 

  この歌は星野源さんの歌を聞くようになったきっかけで、大好きな歌。職場までの道を「あ、そ、こ、のもーりーの」などと歌いながら歩いていたら、サビの前の歌詞でようやくふと、というかやはり、ちょっと恥ずかしくなり、晴れた寒い朝に妙齢を過ぎた女がひとりでヒールをコツコツいわせながら歌う歌ではないかと思い、「SUN」に切り替えた。  

SUN

SUN

 

君の声を聞かせて

雲をよけ 世界照らすような

君の声を聞かせて

遠い所も雨の中も全ては思い通り

 楽しい春が来ますように!

ブログを始めて3カ月経って思うことと、Web世界についての妄想

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ここらへんで一度、今思っていることなど書いておこうと思う。

最近はドラマの感想を多く書いている。もともとこのブログを始めたときには、そういう記事を書くつもりはなかったのだけれど、『逃げ恥』がおもしろくて他のブロガーの方たちの感想を読んでいるうちに、自分も書いてみるかと書き始め、けっこう楽しいのでそのまま書き続けている。数年後に読むのもおもしろい気がするので、今後も心に引っかかるドラマについては書いていこうと思う。

あとは、日々感じたことや好きな本のことをもっと書いていきたい。 

何を書くにしても、自分が楽しくなければ続かないと思うので、楽しいと思うことを書いていけたらいいかな。

 

ときどき、妄想する。

私たちは真っ平な土地の上で生活し、私たちの上には巨大な水風船のようなWeb世界が浮かんでいる。Web世界は、毎日休みなく、誰かの感情や思想が流れ込み膨張していく。水風船に水が入れられていくように。ある日その重さと容積に耐えられなくなって、パーン!とはちきれたら、それまでWeb世界に溜め込まれていた感情や思想が一気に私たちの上に降り注ぎ、かつてないほどの思想的混乱に陥るのではないだろうか。

そんなことを私は妄想し、その妄想さえこうしてブログに書くことで、ほんの少しだけれど、妄想という水をまた入れてしまう。水風船は無限に膨張していけるだろうか。

 あ、でも、もうここ何年かは、それより前からかもしれないけれど、水風船の中の水は常に少しずつ漏れてこちら側にしずくを落としているみたいだ。その数は年々増えている。いずれ雨のようになるかもしれない。もう降っている場所もあるかもしない。

 

このブログをいつまで続けられるのかはわからないけれど、続けられるところまでは続けていこうと思っている。

『カルテット』STORY4 連鎖する秘密

第4回は、家森さんの回でした。

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家森さん役の高橋一生さんは、前クールのドラマ『プリンセスメゾン』で演じられた伊達さん役が好きだった。呼吸とか、指の先、目線の先まで行き届いた演技で、『カルテット』を見ようと思ったのは高橋一生さんが出るからというのもある。

(余談ですが、『プリンセスメゾン』はドラマ自体も好きだった。もう一度見たいけれど、残念ながら今のところ再放送の予定もDVD発売予定もないようです。)

  

自分の過去の秘密について話すとき、宝くじで6000万当たったことがある、とまずそこから始めるというのは、そのことが家森さんにとって今もそれだけ大きなことだったから。もしそれを受け取っていたら、そのときの未来であった現在を変えられていたかもしれない。

けれど時間は不可逆。から揚げにレモンをかけたら、もとに戻らないことはよくわかっているはずなのに、理解することと納得することは違う。

 

別府くんが言い出した、朝のゴミ出し問題。 

「僕が全部やっちゃうから、みんなやらないのかなあ。僕がやらなかったらみんなやるのかも。」

自分がやっちゃうから他の人はやらないのか、ということは、仕事ではけっこうある。ちょっとした雑用とか、誰かがやらなければいけないことだけれど、少しだけ面倒なこと。これはなかなか、解決するのが難しい。ちょっとしたことだから、そう思ってもたいていは強く言えない。別府くんみたいには。

仕事だけの関係ではないから、ゴミ出しのようにちょっとしたことでも、口に出してしまえるのかもしれない。別府くんは。

 

いろいろあったけれど、今さらなんだけれど「マキさん」が気になった。 

巻真紀さんは「マキさん」と呼ばれるとき、「巻さん」か「真紀さん」か、どちらで呼ばれていると思っているのだろう。

呼ぶ方は下の名前で呼んでいるつもりでも、呼ばれる方は苗字で呼ばれていると思っていたりすることもあるだろう。呼び方はその人との関係性を規定してしまうことがあるので、どう呼ぶか、どう呼ばせるかは、最初に出会ったとき、関係が変化するときに一考するべきかもしれない。私は巻真紀さんのことを、少しの親しみを込めて「真紀さん」と書いている。が、決して「真紀ちゃん」とはならない。

別府くんはどうなんだろう。巻、という苗字は真紀さんの夫のものなのだろうから「真紀さん」と呼びたいけれど、やはり「巻さん」と呼んでしまうのろうか。愛しいが虚しいに勝っているときなどは、「真紀さん」と呼びたくなるのかもしれない。そんなこと、どちらでもいいのか、マキさんには。

「語りかけても、触っても、そこには何もない。」 

横から見たら欠けているところなどないのに、上から覗くとぽっかり穴のあいたドーナツのように。真紀さんの、まだ見えない、暗くて深い空間には、どんな秘密が隠されているんだろう。

 

有朱のような人は、人の秘密の匂いを嗅ぎつける特殊な鼻を持っているんだろう。真紀さんの秘密を追っていたすずめちゃんは、「真紀さんの秘密を追っていた」という秘密を有朱に追われることになった。秘密が新たな秘密を作り出し、その秘密が別の他人に追われることになる。

大人だからって、秘密を守ることができるだろうか。

 

 

『カルテット』について書いた記事

 

 

  

 

 

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『刑事フォイル 戦争の犠牲者』

 『刑事フォイル 戦争の犠牲者』の感想を書いています。第4シリーズパート2の2話目(NHK BSプレミアムでは2017年1月22日、1月29日放送分)です。

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あらすじ

<前編>

1943年3月。フォイルのもとに、かつて親しかった上官の娘が子どもを連れて現れる。彼女はとても困っている様子だった。一方、ヘイスティングズでは、沿岸部での破壊工作と違法賭博が横行。ミルナーが潜入捜査をしていた賭場で、二人の若い兄弟が大金を使っていたことにミルナーは疑問を抱く。町外れの研究所では、ある研究が秘密裏に行われていた。

<後編>

殺された男は研究所で働くイブリンの夫だった。教授のタウンゼンドは研究を優先させてほしいと、フォイルに殺人の捜査をやめるよう迫る。フランクとテリーの兄弟は、タウンゼンドたちが遺体を森に隠すところを目撃。これをネタに、タウンゼンドから大金を脅し取ろうとする。サムは森にピクニックにでかけたところ、爆発に巻き込まれる。

NHK 海外ドラマHP 『刑事フォイル』これまでのあらすじ より

 

感想

3つの犯罪が交差します。破壊工作、違法賭博、銃による殺人。フォイルは、犯罪者には法による相当の罰を与えるべきという正義を貫こうとします。

フォイルが正義を貫こうとすると、必ず上司と対立します。警視監パーキンスは、フォイルはよく働くが反抗的、君の代わりはいくらでもいると言い放ちます。

フォイルの正義と、戦争に勝つという目的との対立。戦争に勝つためには、法を曲げ、容認してもいい罪があるのか。このドラマで何度も問われてきたことです。見ごたえのある話でした。

 

フォイルが捜査している破壊工作は、スペインの大使館付きの身分のデ・ペレスが、家に盗みに入ったフランクとテリーの兄弟を脅してさせていました。2人は、賭場でミルナーが出会った若い兄弟でした。フランクとテリーの父親は戦地へ行っているため不在、母親はすでに亡くなっていて、デ・ペレスの言いなりになるしかありませんでした。

デ・ペレスは、フランクに爆弾を渡し、町外れの研究所を爆破するよう指示します。この研究所では、イギリスがドイツに勝つために必要とされるある装置の研究を極秘で進めており、フォイルの知り合いのタウンゼンドもここで働いていました。研究所の下見に行ったフランクとテリーは、タウンゼンドらが死体を運んでいるところを偶然見てしまいます。2人はこれをネタにタウンゼンドを脅して大金をせしめ、ヘイスティングズから出ることでデ・ペレスから逃れようとします。生活するためにお金を手に入れなければならず、そのためには犯罪に手を出すしかない2人も、戦争の犠牲者なのです。

フランクとテリーが見た死体は、研究所の秘書として働くイヴリンの夫リチャーズでした。イヴリンは、研究所の装置を壊そうとしたリチャーズを、装置を守るために仕方なく銃で撃ったと告白しました。しかし、フォイルはその裏にある真実に気づきます。

フランクとテリーに破壊工作を指示していたデ・ペレスはスペイン人です。スペインは1939年に中立を宣言したものの、裏でドイツに協力していました。デ・ペレスの破壊工作も、イギリスの軍事力を弱めようという意図でなされものです。しかし、デ・ペレスに対しては、治外法権のために手が出せません。

一方、フォイルの家を突然訪れてきたかつての上官の娘リディア。彼女は誰も頼れる人がなく、息子のジェームズは空襲を受けて以来言葉を話さなくなり、精神的、経済的に追い詰められ、ある日姿を消してしまいます。

リディアがいない間、フォイルはサムにジェームズの面倒を頼みます。サムがジェームズに読む絵本もパズルも戦争に関するもの。空襲でショックを受けているジェームズを気遣い、サムはおもちゃ屋で戦争に関係ないものを探しますが見つかりません。すべてが戦争に染められていきます。戦争とは国がかかる熱病のようなものなのでしょうか。

 

フォイルは、パーキンスの元を訪れ、デ・ペレスの状況について尋ねますが、逮捕することはできないとわかっただけでした。

  「罪を償わない人間ばかり。」

 パーキンスにリチャーズ殺害の真実を告げ、その証拠があると言っても、パーキンスは

「それでは不足だ」

と動きません。

「不足。私にはもう十分です。」

 フォイルが最終的に警察を去る決断を下したのは、この瞬間だったのではないでしょうか。パーキンスの反応次第では、警察に残ったのかもしれません。

「もう飽き飽きしました。戦争に勝つためという言い訳にも、少年たちを脅して破壊工作をさせた男には手を出せないのに、親が近くにいないゆえに道を踏み外したまだ若い兄弟には数年の重労働を課すとか、部下が見ている前で私を怒鳴りつける警視監にも。ええ、もう十分ですよ。」

フォイルにしては長いセリフからも、鬱積した気持ちが推し量れます。

フォイルはパーキンスの机に辞表を置き、パーキンスが引き留めるのも聞かずに部屋から出て行きます。

フォイルの辞表には、その無力感が表れていました。

「前にも申し上げましたが、戦争中に法を守るのはほぼ不可能です。その任務を遂行する能力がない以上、本官が現在の地位にとどまるのは無意味だとの結論に至りました。」

どうしても正義を貫けないと感じたフォイルの決断は、仕方ないのかもしれません。 フォイルの決断を聞いたサムとミルナーの表情が切ないです。

 

 

『刑事フォイル』について書いた記事 

 

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『カルテット』STORY1、2、3 一筋縄ではいかない大人たち


このドラマについてあちこちで「万人受けする作品ではない、でもおもしろい」と書かれているのを見る。私もそう思う。

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松たか子さん(巻真紀)、満島ひかりさん(世吹すずめ)、高橋一生さん(家森諭高)、松田龍平さん(別府司)。この役者さんたちがそろうというだけで、見よう!と思った。会話劇というのは、演じる役者さんによって出来が左右されてしまうものだけれど、4人で会話する場面はエチュード(即興劇)なんじゃないかと思うほど、台本のセリフを言ってるなという感じがしない。

 

 偶然カラオケボックスで出会った4人は(実は偶然ではなかったと第2回でわかった)、カルテットを組むことに。4人は軽井沢にある別荘で共同生活を送る。

そして4人の秘密が少しずつもれていく。

1話では真紀さんが夫の失踪を白状した。

2話では別府くんがカラオケでの出会いは偶然ではないと真紀さんに思いを告白した。

別府くんと同僚の九條さんが、明け方のベランダでサッポロ一番を食べるシーンが好きだった。結婚が決まってるけど好きだから別府くんと寝た、でもそういうのは今日だけのこと、と言う九條さん。好きだけど、ある時点を過ぎて過去のものになってしまう恋愛というのは、あるよなあ。

2話ではいくつかの対比の表現があって、上と下、左と右、言葉と気持ち、など。その中に秘密を追う側と秘密を追われる側というのがあって、追うのがすずめちゃん、追われるのが真紀さん、だとすずめちゃんは思っていた。そうじゃなかったのかもしれない、とすずめちゃんが気づいたのが2話の最後。

3話では、ついに追う側と追われる側は逆転する。すずめちゃんの過去が真紀さんにばれる。

 子どもの頃の隠しておきたい過去は、しかも親に言われてやっていたことなのに、逃げても逃げても追いかけきて、どこにも安住することができない。すずめちゃんの秘密に追いついた真紀さんは、逃げようとするすずめちゃんの手を握る。もう逃げなくていいのだと。

『湯を沸かすほど熱い愛』を見たときにも思ったけれど、家族に必要なのは血のつながりではなくて(そもそも夫婦は血がつながっていないことがほとんどだし)、お互いに求める力ではなく与える力の中に入っているということだと思う。父親に対してすでに与えようという気持ちがないすずめちゃんにとっては、父親はすでに家族ではなくなってしまった。

自分の体と同じくらいの大きさのチェロを背負って歩くすずめちゃんにとって、チェロはもうひとりの自分であり、唯一の家族だった。ようやく、チェロの他にも家族と言える人たちに出会えたんだ。  

秘密。

ある程度の年数を生きていれば、人に言えない、言いたくないことは誰でもあるだろう。一筋縄ではいかない、秘密を抱えた4人。

ふと思ったんだけど、一筋縄でいく大人って存在するのだろうか(自分で「一筋縄でいかない大人」と書いておいてなんだけど)。ときどき出会う「昔は世の中を斜に見てる子だったんだ」と言う人に対して、世の中を正面からだけ見ているような子どもがいるだろうかと思うのと同じくらいに疑問に思った。

人とのつきあいが難しいのは、相手の感情や思考のごくごく一部だけしか見えないのに、見えないまたは見せない部分の感情や思考も考えて、相手に接しなければいけないから。人の中には大きくて深い空間があって、そこに考えられないくらい多くの感情や思考が詰め込まれている。それはまるでブラックホールのようだなと思う。みんながみんな、ブラックホールを抱えて、それでも平気な顔して外を歩いている。街はブラックホールであふれている。

 もしも誰かのブラックホールにうっかり足を踏み入れてしまったら、元の場所に戻ってこられるんだろうか。巨大なドーナツの穴に落ちたときのように、穴を抜けて出られる空間は、落ちる前と同じ空間なんだろうか。アリスが落ちた穴のように、別の世界へ行ってしまうだろうか。

 

「告白は、子供がするものですよ。大人は誘惑してください。」

それが一般的な恋のルールなのか私はわからないけれど、冬に食べるアイスはおいしいよね。

 

 

『カルテット』について書いた記事 

 

 

 

 

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